第4話 お下品少女、狂気を添えて
「妖術師?」
またまた聞き慣れないこの世界独自の言葉がユウキを襲う。
「えっと簡単に説明すればそちらの世界でいうその……アレ!」
「ア、アレ?」
「ほらっアレったらアレですよ。あのま〜じゅ〜あれ次なんだっけ?」
「魔術師のことか?」
「ザッツライト! そちらで魔術師って言われるのがこっちだと妖術師みたいな?」
「それってつまり……この世界では妖術っていう魔術とは違う能力があるって?」
「おぉ物分かりいいね、正解!」
語彙力が壊滅的だというのに翔蘭の説明は何故だが伝わってしまう。
「まっこんな場所で話していてもアレですし先生の所で詳しく話しましょうか」
「先生?」
「頭がいい人。まぁ西方世界からここに来ちゃった理由、ワンチャン分かるんじゃん?」
そう言うと翔蘭は指クイと共にユウキを先導する。
「ほらおいで先輩」
翔蘭の後をついてく形でユウキは東方世界という幻想の感覚を全身で感じる。
(不思議な世界だな……)
道中に見える動物も植物もユウキにとっては見たこともないような物ばかり。
未知の連続にユウキの許容量は早々に限界を迎え始めてる。
どうにか思考を巡らせ状況を整理しようとしていたその時だった。
「ん?」
何処からか感じる熱を帯びた視線。
「ジ〜〜〜〜」
右に目をやると翔蘭が密着するほどの近さから舐めるようにユウキを凝視していた。
「ど、どうかしたか?」
「いやぁウケるなって」
「ウケる?」
「西方世界の人が。噂には聞いてましたが実際に見るのは初めてなので。へぇこんな感じなんっすねぇ!」
(近っ……ヤバい惚れそう)
上目遣いをする翔蘭の大きな瞳はユウキの心を揺れ動かす。
女子特有のいい匂いが否が応でも鼻孔を刺激してくる。
邪念のない純粋な興味で近づく翔蘭とは裏腹にユウキの脳内は劣情に満たされていた。
(いや平然だ、平然! 彼女に下心はないんだ! 俺は賢者、俺は賢者、俺は賢者、俺は賢者、俺は賢者、俺は賢者、俺は賢者)
少しでも気が緩んだら彼女を抱きしめてしまうほどユウキの理性は揺らぐ。
呪文のように頭でそう唱えながらどうにか自重の紐を掴み続ける。
「……ねぇエロいこと考えてます?」
「えっ!?」
そんな健康男児の心情を翔蘭は意地悪な笑みと共に見透かしていた。
「プッ、ギャハハハハハッ! うわっキモっウケるんですけどぉ!」
「違っ俺にそんな心は!」
「そんな紳士ぶって〜素直に欲見せるほうが好感高いっすよ〜? このスケベ野郎」
「だ、だから」
「どうせ一人になったら私のことオカズにして右手でシコシコするんでしょ?」
「ばっ!? しねぇよ! てか女の子がシコシコとか言うなよ!」
「女がシコシコ言っちゃ駄目な法律はありませんよ? んで何処に欲情するんすか? 顔、胸、尻、お腹、おへそ、鼠径部、太もも、腋、肩、腕、足、首、匂い、声、まぁどれも私は魅力的だからな〜シコられても仕方ないか〜!」
(ド下ネタを平気で言いやがって……)
刺激強めの卑猥な言葉で翔蘭はユウキをこれでもかとイジり始める。
穴があったら入りたい、それほどの羞恥心がユウキの心を染めあげる。
「まっでも安心しました。あっちの世界の男の人もちゃ〜んとエロいんだなって」
「何がしたいんだ……さっきからそんな俺をおちょくるようなことして」
「興味があるから遊んでるだけっすよ。それに楽しいんで」
「怖がらないのか? いきなり別世界の人間が現れて」
「はっ? 何で?」
そう言って翔蘭はユウキの頬をなぞるように触り悪戯な笑みを浮かべた。
「別世界とか関係ないっしょ。その人が私にとって楽しければ何でもいいんすけど」
「楽しければ……」
「楽しければ万々歳なんすよ。こんな生き方はいかがですか?」
「……そう生きれたらいいな」
まだ出会ってばっかりなのに既にユウキは翔蘭の価値観を絶賛した。
そしてこういう娘が前の世界にもいてほしかったと
「そういう生き方って神だよ! 先輩もやってみた」
そんな時、翔蘭はいきなり言葉が途絶えさせると足を止めた。
「……翔蘭?」
「あぁ、ちょっと面倒事っす」
「へっ?」
「ほら前、ご覧になりなさい」
前から見える小さな黒い点。
虫か何かなのかと凝視していると徐々に点は大きくなり幽霊のような黒い影の塊が現れた。
影の塊には白い模様が顔のように刻まれ醜悪な笑みを浮かべている。
「なっ、何だアレ怖っ!?」
「
「黒霊?」
「この世に未練タラタラのヤバい悪霊っす。ちょっと待ってて、はぁタイミング悪いな〜そういうのムカつくんだよなァ!!」
翔蘭は黒霊と呼ばれるモンスターに物怖じせず近づき始める。
それどころか、笑みを浮かべ舌なめずりをしていた。
鋭い八重歯が剥き出しとなり瞳孔が開く。
「まっ丁度いいか。先輩、私は口でベラベラと説明するの苦手ですし嫌い」
腰部から抜刀される双剣。
赤を基調とした刃に花のように鮮やかで妙に機械的なフォルム。
巧みに取り出すと演舞のように振り回し戦闘の態勢を取った。
「だから見ててよ異世界先輩。妖術師がどんなものなのかを、その目にねェ!」
「ギァァァァァァァ!」
殺意を全開にした黒霊は奇声を上げながら翔蘭に襲いかかった。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
彼女の周りを舞い始める焔。
火花は徐々に集約され炎を形成し双剣に纏わりつく。
「
瞬きすらも許さない速度で翔蘭は加速し黒霊を一瞬で踊るように切り刻んだ。
「ギィァァァァァァァァ!」
鳴り響く凄まじい断末魔。
花火のような鮮やかな爆発と共に黒霊は全身をに焼かれ跡形もなく焼死した。
「ポウッ!!」
翔蘭は燃え盛る黒霊を見ながら奇声を上げ興奮する。
「嘘だろ……」
「どうっすか先輩、これが妖術師! 自然の力を使う人間達だよ、イェイ!」
爆炎を背景にピースを掲げる翔蘭。
それとは裏腹にユウキは唖然とするしかなかった。
西方とはまた違う技の迫力。
今のだけでも妖術師という物がどういう強さなのか直ぐにも理解できた。
「これで分かりましたか? 分かりましたよね。妖術師ってやつのこと!」
「あぁ分かったよ……嫌というほどに」
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