第3話 ここはあの世か?
「っ……」
あれから何があったのか?
死んでしまったのか?
それともまだ生きているのか?
視界や聴覚が曇り、意識もしっかりしないユウキには分からない。
「……い……い」
その中で聞こえる女性のような声。
幻聴でも聞こえているのか、それとも天使か悪魔が迎えにきたのか。
「……い……い」
徐々にフィルターがなくなっていき鮮明になっていく声。
「お……い……お……ーい」
一体何が起きているのか。
段々とはっきりしていく感覚。
そしてようやくユウキは声の主が誰なのか認識した。
「えっ……?」
「おーい、生きてる? 生きてるかなァ!」
頭部に感じる柔らかい感触。
空を向く視線の先には綺麗な顔立ちの少女が真っ直ぐな目で見下ろしていた。
「なっえっ!?」
謎の少女に膝枕されてるという事実に咄嗟に飛び起きてユウキは更に驚愕した。
「はっ!?」
見たことのない楽園のような赤紫の空。
周りに美味しげるオレンジの実のような物をぶら下げた木々。
そして見たこともない衣服を装備し、膝枕している少女。
それはユウキが想像も出来ないくらい幻想的で摩訶不思議な世界が広がっていた。
「……俺って死んだ?」
「んーどうだろ、まぁ足ついてるしご存命なんじゃないかな?」
少女の言うとおりユウキの身体は足がしっかりついている。
自分自身の肌を触ればしっかりと感触があり頬をつねれば痛みも感じた。
何が何だかという状況だったが、最低限ここがこの世であることをユウキは理解する。
「それにね」
困惑に浸っている彼に構わず少女はユウキの顔に近づき温かな息を耳に吹きかけた。
「ッ!?」
熱を感じ扇情を刺激する吐息にユウキは咄嗟に少女から身体を離す。
「なっちょ、いきなに何を!?」
「ほらっ今の息、熱かったっしょ? 死人は熱を感じないから生きてる、ね?」
初対面とは思えない妖艶的な奇行にユウキは更に困惑する。
「そういや名前は?」
そんな彼を追撃するかの如く、ゼロ距離で彼女は一方的な質問を投げかける。
「はっ?」
「名前、あと年齢。性別は男だよね? その膨らみ的にチンポついてるだろうし」
(チンポ!? 女の子がチンポ発言!?)
「はよ名前教えてよ。オラッ早くしろ。トロイなこのクズ」
「ユ、ユウキ・アスハ……年齢は19」
「へぇ19歳なんだ! じゃあ年上なんですね。それならユウキじゃなくて先輩って呼ばせてもらおうかな」
一切入る隙のない言葉の乱打に独特なテンション。
ユウキは強引に少女を制止する。
「ちょっと待て! まず俺の話を聞いてくれ! 俺は何があってここに?」
「覚えてないんすか? へぇますます面白いじゃん」
少女の話によれば彼女はこの果樹園で散歩をしていた。
その時にうつ伏せのまま気絶して倒れていたユウキを発見。
息はあるが蹴っても目覚めないのでそれまでは膝枕で介抱していた。
あの白い穴から落ちた後、何らかの経緯を得てここで眠っていたとユウキは推理する。
「あの穴……だよなきっと。ってここは何なんだ?」
これまで想像もしなかったような光景の数々。
スレイズと共に攻略した辺境の地でもここまで幻想的な記憶はユウキにはない。
「
「……えっ?」
「ん?」
「はっ?」
「あっ?」
「い、いや何て?」
「曹羅っすよ。そ・う・ら」
「ソウラ……?」
ずいぶんと変わった名前の聞いたことのない地名にユウキは首を傾げる。
「それって何処?」
「この世界の南を表す大規模な地域の名前っすけど」
「ん……?」
さっきから何を言っているかさっぱり分からずユウキの脳内は困惑が埋まっていく。
「知らないんすか? もしかして引きこもり? 社会のゴミ? もっと光合成しなよ」
「い、いやそういうわけじゃ」
「あっもしかして直感ですけど貴方は西方世界から来た人とか? 正解っすか?」
「西方世界?」
少女が言う西方世界というのは魔法が支配する世界。
つまりはこれまでユウキがいた世界が西方世界という言葉に該当するという。
「んでここは対をなす東方世界ってとこ。理解しました? 理解したよね?」
この幻想的な世界は西方世界とは対をなす世界と少女は言う。
「えってことはまさか別世界!?」
「そうっすね。じゃ私の正解ってことで言いっすよね? ですよね!?」
まさかあんな面白半分の噂が本当にあった話だなんてユウキは考えもしなかった。
あの受付嬢だってふざけた噂という前提で話していたはず。
夢だと信じたいがこの異様な光景を別世界という理由以外で説明することも出来ない。
そうなる以上、ユウキはその事実を受け入れるしかなかった。
「マジかよ……どうすりゃいいんだ」
ここに来たのはユウキ自身の選択。
あのままブレイク・ベアーに挑んでも詰んでいたし最良の選択だとユウキは今でも思ってる。
しかし右も左も分からない突然の別世界にユウキは頭をかかえるしかなかった。
「あの、凄い「あぁ神様助けて!」って顔してますけど助けに来ませんからね?」
そんな困惑する彼を見かねて、彼女は呆れた顔で冷酷に現実を投げつける。
「そんなこと分かってる……神なんて人間にとって都合のいい存在でしかないくらい」
「ほぉ、結構現実わかってるお利口ちゃん?悪くないっすねそういうの!」
「あの……さっきから何なんだ、意味わからないテンションで」
文句を言おうと少女の顔を見つめた瞬間、ユウキの言葉が詰まる。
「……バチクソ美少女じゃん」
ユウキは思わず煩悩にまみれたことを無意識に呟いてしまう。
さっきから独特なハイテンションと恐ろしい言動を言い放つ少女。
その内面に注目していたが、改めて冷静に全体を見つめると、エグいくらい可愛い容姿を彼女はしていた。
「美少女?」
「……ハッ!? いや別に変な意味じゃなくてただ率直な感想を!」
艶やかなポニーテールと大きな髪飾り。
太陽も嫉妬するほどのオレンジ色の瞳。
可憐さを際立たせる赤のアイライン。
耳につけられたピアスにチョーカー。
華奢で小柄なスタイル。
白と赤を基調とした可憐な服に歪な双剣の武器。
独創的ながらも絵画のような美しさにユウキは目を奪われていた。
意識せずに「美少女」という言葉を呟いてしまうほどに。
「あぁやっぱりそれ思いますよね?」
「えっ?」
「まぁ当然ですからね、私かわいいですし美少女なんでそう口に出るのは当ッ然!」
ドン引きされると思いきや、彼女は美少女という言葉をドヤ顔で受け入れた。
(何なんだこの娘……かわいいけど何かウザいぞ)
逆にユウキの方がドン引きするという異常な空間が生まれている。
「そ、そういえば君は? 君の名前は?」
「私? そんなに知りたいんですか? えぇゾッコンじゃん」
悪戯な笑みを浮かべると彼女は見下すような視線でこう言い放った。
「
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