35歳 久しぶりに外に出る。

「俺が…働く?

んな事するわけないだろ!

誰がお前らのいうことなんか!」

きくか!

そう言おうとした時だった。

「というわけで、ここを出ていく準備をしてください」

…は?

女は人の話を聞こうともせず、用件を俺に手短に伝えてきた。

「人の話を聞けよ!

とにかく!俺は働かないし、ここから出る気もない!」

「貴方…いえ、紐川。

貴方、持ち主の命令が聞けないの?」

急に女の態度が変わった。

それに伴って雰囲気も一変した。

「…当然だ!

大体、今日初めて会った名前も知らない女の言うことを聞く方がおかしいだろ!」

「名前に関しては後で教えてあげるから、私が優しくしてるうちに早く準備をしなさい」

命令口調で淡々と俺に話をしてくる。

「…いやだね…」

言いなりになんてなりたくない。

そう感じた時だった。

パシン!

頬に衝撃と痛みが走った。

「言うことを聞きなさい。

貴方に否定する権利は無いのよ。

良いから言う通りにしなさい?

次はこんなんじゃ済まないわよ?」

俺は何故かこの時、言う通りにしなければいけないという、本能のような何かを感じた。

俺は急いで、荷造りと着替えをした。

しかし、お手洗いと風呂以外で部屋から出ることが数年ぶりの俺の身体には、溜まりに溜まった贅肉があり、動きがとてもゆっくりであった。

そしてなんとか準備を終えた時には、既に十分以上を消費していた。

そして、女の後ろに続いて、俺は玄関へ向かう。

「それではお母様、兄斗さんは責任を持って私達が買い取らせていただきます」

「ありがとうございます…兄斗、しっかり働いて、社会の厳しさを知りなさい」

「…うるせぇ」

正直母親の声なんてもう聞きたくなかった。

俺は母親と最後の会話をして、玄関を潜り外の世界へと出ていった。

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