『小慈羅さん』2  その弐


 時間の関係を言えば、このときはまだ、ハシラーと、仲良しに近い関係があるやましんは、生きていましたが、人間からハシラーを開発した兄は、すでに他界していました。


 自殺だったのではないか、とも言われますが、漁に出たまま、帰りませんでした。


 再三にわたる、ハシラーの下関での事件や、政府の秘密研究に対する自責の念が、そうさせたのではないかと、妹は考えていました。


 しかし、当の政府は、知らぬ存ぜぬを、押し通しておりました。


 実際に、一人で詳しく知っている人は、もう、あまりいなかったのですが、隠れたままで、黙っている親分は、まだいたのです。


 ハシラーは、鳴りを潜めておりましたが、実はハシラーも自決しようとしていたのですが、たまたま出会った小慈羅さんに止められて、生き延びておりました。


 小慈羅さんは、『きみがやるべき事が、やがてくるさ。それまで、生きていてください。』


 と、言ったのです。


 小慈羅さんは、くじらが急激に進化した、あえて言えば、くじら人です。

 

 そうして、日本合衆国の中央政府と、密かに接触を図っておりました。


 海上保安隊の進歩派の将校さんと密通して、プリペイド携帯電話を手に入れまして、いよいよ、中根博士に連絡したのです。


 博士は、かの、兄の孫に当たります。


 まだ、20歳そこそこですが、すでに、保安隊中央本部に勤めている天才でした。


 まあ、祖父譲りの才能でした。


 一方、やましんは、社会からは離れて、子供もなく、さっぱりだめな、凡才老人でした。


 中根博士は、見慣れぬ電話に、ちょっと驚きましたが、この番号にかけてくるというのは、間違いでなければ、分けあり、と、いうことになります。


 つまり、一部の人にしか、教えていないからです。


 『もしらもしら。なかね、せんせいれすか?』


 『あなたは、どなた?』


 『わらしは、小慈羅。という、くじら属であります。』


 これが、中根博士と、小慈羅さんの、ファーストコンタクトでした。



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