『小慈羅さん』 2

やましん(テンパー)

『小慈羅さん』 2 その壱

 小慈羅さんは、ある、くじらさんの一族が、超進化した個体です。


 彼らは、海中都市を建設し、文明を築いていたのですが、人間との接触は、長らく控えていました。


 小慈羅さんは、そのむかし、海のなかで、ハシラーくんと出会い、仲良しになりました。


 『いつか、いっしょに、そのふたりと、ふくさしとか、おさしみとか、食べながら、お酒も頂きたいなあ。』


 ハシラーくんと、海中都市の広い食堂で話をしながら、小慈羅さんは、言いました。


 しかし、ハシラーくんの話では、その人間ふたりとは、だいぶん前に、最後の盃を交わして、別れたのだそうな。

 

 それは、もう、30年以上前らしいです。


 『人間は、あまり、長生きではないからなあ。もう、生きていないかもなあ。』


 小慈羅さんは、体長2.4メーター、地上では

二足歩行します。


 でかいと言えばでかいけど、体長15メーターもあるハシラーくんと違って、人間の町でも、生活できないわけではありません。


 小慈羅くんは、日本語、英語、フランス語を学んでいました。


 あるとき、ついに、日本の海上保安隊と出会い、うまく、コミュニケーションができました。


 まあ、つまり、アメリカ国と、UFOの出合いみたいな感じですね。


 情報交換を始めましたが、当面は秘密とされたのです。


 小慈羅さんは、そこで、ハシラーくんから聞いた話を持ち出してみました。


 しかし、隊員さんたちは、ハシラーくんの話しは、聞いてはいたものの、みな、若い人でもあり、あまり知りませんでした。


 情報交換を、はじめて、一年くらい経ったころ、小慈羅さんは、保安隊専門の魚料理店に入りました。


 わざわざ、でっかい、コートをはおり、あまり分からないようにしていました。


 人間は、用心深いと、つくづく思いました。


 仲良しの隊員にも、そう、感想を述べました。


 すると、彼が言いますのには……


 『人類は、自分達以外に、文明を持つ存在は、なかなか、認められないのです。国どおしのレベルでさえ、間違った認識が、つい最近までありましたし、未だに、人種差別的な考えもあります。この壁は、頑固なものです。しかし、時間が掛かっても、なくさなくては。ぼくは、そう思うんです。』


 同僚の女性は、さらに言います。


 『男女差別も、ないとは、言えないですね。上層部も、ちらちら、失言しますが、思ってなきゃ、失言しないでしょう。』


 小慈羅さんは、人類が持つ深い悩みを、覗き込んだようにも、思いました。


 『こうした話を、あなたとすること自体を、警戒している幹部もあります。ま、監視されてると思って良いですよ。ただし気にしても仕方ないですが。あ、それで、中根博士の連絡先です。携帯電話す。こちらが、プリペイド携帯電話。話ができたら、すぐ、返してください。』


『わかりました。』


 小慈羅さんは、答えました。


  

 


 


 

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