第11話考えられる俺の潜在的な天職の候補が酷いのばっかり!

怒られるかと思って内心ビクビクしながらイキってやろうと意気込んで口を開きかけたところで先手を打たれてしまった。


「ムゲン・ウタカタ様でお間違いないでしょうか!間違いないですよね!間違いないと言ってください!お願いします。」


「は、はい。俺がムゲンです。」


憲兵の人のあまりの必死さにうっかり素直に反応してしまった。


それにしてもここはあの変なおじさんの真似ができる絶好な機会だったのではなかろうか。


まあ、あんな奇行を衆目に見られる中恥ずかしげもなくしかも異世界でやったりしたら背筋が寒くなるような空気になってしまうに違いないし、そもそもそんな鉄のメンタルじゃないし、むしろチキンとまで言える心臓の持ち合わせしかないし。


そういった現実逃避を頭の中で繰り広げていると憲兵の人が心底安堵しきった様子で腰を抜かしていた。


「本当によかった。気が抜けて力が入りません。我が国の恩人をみすみす失うと思いました。我々は、国王陛下さえも、もう気が気ではありませんでしたよ。」


なんだかよくわからないが金ズルが逃げたと思って焦ったとかそういうのだろうか。


よくわからないと言った表情でいるだろう俺に何やら憲兵の人が説明らしいものをしてくれた。


「我が国にはそれはもう数多くのダンジョンが囲んでおりそのどれもに魔導具の監視がついいています。その魔導具から四箇所ものダンジョンの踏破が確認されました。それが我が国の恩人のムゲン・ウタカタ様だとわかり国はパニックになりました。まさか他国のおそらく高貴な血筋のお方が私財を投じて我が国の問題を積極的に解決してくれるどころか今後の資金を稼ぐため自らダンジョンに行くなど我々にはどういう状況か検討もつかず。そうしているうちに事態は進み飲まず食わずで一切休みも取らず自らの命を餌に魔物を蹂躙するあなたに我々はようやく我々こそが恩人であるあなたをそこまで追い詰めてしまったことに思い至りまして。」


最後の言葉からは歯切れ悪く憲兵の人も事態を重く捉えすぎているようで口を開きかけては閉じるを繰り返している。


謝りたいけど謝っていいのか謝る資格はあるのか、もしくは諌めたいけど同じく諌めていいものか諌める資格があるのか、重く、それはもう深刻に考えていることが話の流れから予想できる。


そこまで善良な国王とそれを支えているであろう臣下がいる国がどうしてこんな状況なのかはひとまず置いておくとして。


気まずい。


ただのストレス発散をしたことでそこまで迷惑をかけてしまったことにこちらが帰って申し訳がない。


しかも真実を告げるわけにもいかない。


何日も飲まず食わず休まずで庇護下にある奴隷や孤児のために命がけで金を稼ぐためダンジョンに潜っていたという美談になってしまっているらしい。


ちなみにこの世界ではどうやら空港の持ち物検査なんか目じゃないレベルの魔導具によりアイテムボックスの中身までしっかり調べることができるようで二つ目の、要するにストレス発散の最初の犠牲になったダンジョンに入った時点で武器になるようなものしか持っていなかったこと、つまり無一文であることがばれてしまっていたらしい。


正直ギルドで無一文であることが指摘されなかったのは不思議だがそれはそれとして罪悪感はあるがここは話に乗るしかない。


俺は嘘は嫌いだが詐欺師並みに流れに乗る嘘が上手いのだ。


その事実が常に俺を自己嫌悪に苛ませてくれるのだがこの際その稀有な才能に頼るしかない。


この才能を嫌悪してはいるものの人生でこれまでこの才能のおかげでうまくやってこれたと言える。


「いやぁ、あんな大見得切った行動しちゃった手前責任を取ろうとするのは当たり前だろ。まあ、必死だったからさ。視野も狭くなってたしやるべきことはやったんだから、だから許してよ。もうそろそろ休ませてよ。」


レベルアップのおかげで治りきっているものの手の皮がズル剥けてボロボロに見える片手をわざと見えるよう謝るジェスチャーをして片目を閉じた。


「も、もちろんです。ごゆっくりなさってください。宿の方は期間が過ぎたため部屋にムゲン様の私物がなかったこともあり現在は別の客が部屋を使っているようです。孤児院はすでに完成しておりますのでそちらにむかわれますか?」


ああ、こりゃ宿屋には後で謝りに行かなきゃ鍵も返さなきゃいけないし。


でもここは流れ的に行けないよなぁ。


「ああ、待たせている人が多いからなぁ。案内も頼める?」


「はい。それは商業ギルドのものが承ります。関所の方でそのものは待機させておりますのでご安心ください。」


そんなVIPな対応に尚更申し訳なくなってくるがそんな内心はおくびにも出さずにいかにもホッとしたといった様子で返した。


「ああよかった。ありがとな。正直言うと疲れていて結構頭が働いていないからそういう人を用意してくれてるのはありがたいよ。」


全然正直に言ってないわけだがそういう人を用意してくれていたというのは本当にありがたかった。


それにしてもこれじゃあ天職殺人鬼より詐欺師の方が有力候補だったんじゃないだろうか。

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(試作)願いを叶える代償に悪魔に魂を売ったら異世界に連れて行かれた。金貨と物理でぶんなぐる異世界無双!! 仇桜 @MUSHIKIofBHC

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