第10話悪魔は盤上の外から持ってきた駒を手の中で弄ぶ。
ここで泡沫夢幻のことを少し語っておこう。
泡沫夢幻25歳。
彼はそれなりに裕福な家庭でとても愛情深く育てられた。
普通の子供だった。
周りから見ても特になにか悪いところはないし彼が殺人鬼として世間を騒がしはじめた時も彼を知っている人間はだれもがまさかそんなことをするような人間ではなかったと思うほどに明るく優しく真面目で善人だった。
しかし彼はの真面目さは優しさは彼から人間としての余裕を視野を狭めた。
彼はどんな時もひたすら徹底した倫理観を己に課し常に善良であろうと、全力であろうと、勤勉であろうとした。
倫理上、善良であろうと表面上ではどんな理不尽でも許したふりをしてその実恨みを一つ残らず抱えた。
倫理上、仕事をするからには全力であらなければいけないという心情の元、仕事はどれも長続きはしなかった。
倫理上、社会人として自立して働かなければならないという思いから自ら変える場所を切り捨てた。
ギリギリの生活をただ生きるためだけにほとんどの人間らしさを捨てていった。
仕事を転々とし、食事は栄養源として最適なものをこだわりもせず味わうこともなくただ口に入れる。
空いている時間はひたすら眠り自責の念や今までの恨みつらみを頭に浮かべてストレスという自刃の刃を研ぎ澄ました。
そんな日々を続けているうちに自殺未遂やらを繰り返すようになり両親はそんな我が子を心配して様子を見に来た時、彼の目の前で彼の両親は殺された。
彼の両親はいかにもな大荷物で旅行者らしかった。
そこが災いし強盗にあったのだ。
そこから彼は狂ってしまった。
現実から目を背け過去を無かったものとして未来を捨てたそして正気を失った。
人間らしい生活をしてこ無かった彼は、理性を失い正気を失い正義を失った彼は、とうとう鬼になった。
彼は狂った鬼になった。
彼は空想に入り込んだ。
ここは漫画の世界で自分は卑怯な真似をしてどんなことをしてでも勝つヤンキー漫画の情けないナンチャッテヤンキーだと。
そうやって自分の空想に入り込んだ彼は彼の両親を殺したような柄の悪い人間に対し過剰防衛で殺しを行い続けた。
日本人は比較的危機意識が薄い。
倫理的な危機意識には敏感でも生存本能はかなり低いほうだ。
そのおかげで被害者は減ることは無かったし彼も生き残って入られた。
そんな狂ってしまった彼の魂を悪魔は契約を利用して強制的に地獄に引き込んだ。
そして今異世界に送って好きにさせている彼はいわば複製だ。
魂のない泡沫夢幻のもともな精神を模したプログラミングがされた自動人形のようなものだ。
彼を送った悪魔が手の中で地獄の業火に焼かれている魂の状態であるオリジナルの夢幻を見てため息をつく。
「責め苦に対する単純な痛みや苦しみそこに己に裁きが下ったことによる怒り困惑安堵感謝ですか。やはりこういうのはあまり見ていて気持ちのいいものではありませんね。」
そして送り込んだ方の彼を見て今度は声を明るくした。
「やはり、元の正常な彼ならしっかりと倫理観に従って良いことを成そうとしてくれますね。騙したのは私も心苦しいですがこれがきっとわたしにできる最善だったでしょう。」
どうやら完全に壊れる前の彼に複製することはでき無かったようだが限りなく力を失い悪魔にまで落とされた我が身としては上出来だっただろう。
「さて、騙したとはいえ約束したものは渡しました。そんな彼がこの世界をどう引っ掻き回してくれるのか楽しみですね。」
そう呟いたと同時に悪魔のいる閉ざされた空間、地獄の空に亀裂が走った。
そこから虚ろな目の少女がハリウッドスターが上階の窓を割って侵入してくるシーンのように空間の亀裂から飛び込んできた。
「助けに来たぞ!むっくん!」
この地獄に招かれる存在など極僅かだ。
それこそ英雄や殺人鬼のようにとんでもない数の人間を殺していないと、そして死んだものでなければここには来ることがないだろう。
だが彼女は招かれたわけでもなくさらに言えば死んでいるわけでもなくここに現れた。
今も彼女は狂咲クルイザキ 桜花オウカは地獄の業火に精神を晒しながら悪魔を虚ろな目で睨んでいた。
そして堂々と言った。
「ここはどこだ!泡沫夢幻を!彼を返せ!」
悪魔は呆然と彼女を見下ろした。
これはどういう状況なのか。
だが確かにわかるのはどうやってここに来れたのか彼女自身わかっておらず遥か高みから睥睨するこの悪魔の巨躯に彼女がまったく恐れを抱いていないことから彼女が正常な思考ではなく己を失ってただ彼を求めるが一新のみでここまでやってきたということだ。
これは面白い。
どうやら手の内に駒が一つ増えたようだ。
あいにく彼女には何も力は渡せないがお望み通り彼の元に送ってやるとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます