第9話クリーニング屋さんは異世界召喚されては来てくれないだろうか
あれから二週間くらいだろうか。
不思議といくらたっても腹が減る事もなく調子に乗って3件ダンジョンをハシゴしてしまった。
楽しかった。
突き刺し抉り振り抜き振り下ろし叩きつける。
それを不意打ちで永遠と繰り返した。
疲れが来ない事も充分おかしかったがそんな事が気にならなくなるほど気分が良かった。
なんちゃってヤンキーでしかない俺でも今までに幾人もの人間を殺してきた。
別にそれは楽しくなかった。
おれはそれしかできないからそうやって生きてきただけだ。
殺すなら殺される覚悟もしておけとよく物語なんかにはそういった内容のセリフが出てくるが俺に殺される覚悟なんてまるでなかった。
生きるために生きたいから殺した。
毎日が恐ろしくてたまらなかった。
毎日殺される事を考えて常に殺されないように殺す事を考えた。
あの世界では自分の身を守るには平和すぎた。
だから確認した。確認できた。
今も俺の手にはしっかりと生き物を暴力で殺した感覚が残っている。
ダンジョンという明確な殺意の中、本当にあるかどうかもわからない人間社会の中の妄想という殺意とは違う本物の悪意。
人間を殺しに全力ではっきりと向かってくる本当の敵地。
その中で俺は生き残った。
殺し尽くした。
殺しつくす事ができた。
だからきっと大丈夫だ。
その安心感を味わうために俺は二週間殺し続けた。
だが満足して冷静になった頭で考えてみたらおかしい事に気付けた。
二週間かけてようやく異変に気付けた。
二週間も飲まず食わずでフル稼働できる人間なんているものか。
まして体に全くの変化がない。
もちろん俺の両手はなんだかひどい有様だ。
皮膚がズリ剥けて血まみれだ。
だがそれだけだった。
クールダウンした今なら感じる痛みすらなくひたすら衝撃を与え続けていたため起こるであろう骨や関節の痛みもない。
空腹も睡眠欲も痛みも疲れもない。
俺は本当に生きているのだろうか。
両手を見てちゃんと血が流れているのがわかる。
見なくとも、痛みはなくとも、確かに感覚はあるし、血も流れている。
訳がわからない。
悪魔との契約の結果、つまり魂がないからだろうか。
それとも今俺は夢を見ているのだろうか。
明晰夢ってやつなのだろうか。
今更になってそんな事を思い返すがおそらくこれは現実だ。
そういう事にしておこう。
そういう事にしておかなければ頭がどうにか、にはもう既になってしまっているかもしれないが自分を保ってはいられない。
そうと決まれば街に帰ろう。
もう既に予定日は過ぎているし孤児院もできている頃だろう。
もしかしたら遅すぎて困ってしまっているかもしれないし。
まあ、前金でたんまり金を渡してあるし怒られても逆ギレしてうやむやにしてしまおう。
それにしても身体中、それはもうカラフルだ。
あのイカのシューティングゲームで集中砲火されたみたいだ。
魔物の血って塗料になるんじゃないか。
乾いてバリバリになってしまっているが落ちてくれるだろうか。
油性マジックのように頑固ではないようで体の汚れは洗い流せたが服が・・・。
そもそもなんで俺は替えの服を奴隷たちの分しか用意していなかったうえそれを全て持って行かせてしまったのだろう。
最初からテントまで買ったりして何日も外出する予定が元から自分の中でもあったというのに。
仕方がないから気持ちが悪いのを我慢して再び服を着る。
下着はビショビショ上着とジーンズはバリバリ。
本当、変な病気とかならないかな。
そんな恐怖を感じながらおどろおどろしい姿で何てこともないように列に並んだ。
チラチラと浴びせられる視線はもともとこの世界に来てすぐに同様に服装の問題で今までとそんなに変わらない。
変わったとしたなら視線に含まれる恐れの質だろう。
今までが貴族や金持ちに向ける視線であったならば、今の視線は何通格好だよオイといったような視線だ。
どっちも子供に直視させるのを全力で止めにかかる必要があるものの、日本で例えるならヤンキーとホームレスのような違いだ。
前の世界ではどっちでもあると言えた俺だが何度も言うが俺はコソコソ周囲に溶け込むのが超うまいのでこの視線には慣れない。
異世界なら生活魔法とかそういう便利な服や体をきれいにしたりする魔法があってもいいはずだが現実としてそんな都合のいいものはなさそうだ。
もしくは個々の人たちがみんな冷たくて誰も教えてくれないとか。
緊迫した表情で憲兵が走ってきた。
やっぱりこんな汚い格好だから迷惑だと怒られてしまうのだろうか。
よし、逆ギレしよう、そうしよう!
迷惑な客というのは時たま選ばれしものに対処されてしまうが大体の場合は関わり合いになりたくないから向こうが折れて話を終わらせようとしてくれる。
選ばれしものに対処されてしまうとひどい目にあうのでなるべくお勧めはしません。
むしろやめなさい!
はたから見ているだけでうわぁだから。
そしてそれを今から全力でやるつもりの俺。
わかっててやる分最悪だし存在自体が痛いなぁ、俺。
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