第7話アリア・シュラザーンは神に祈った

私、アリア・シュラザーンはひもじい生活ながらも自分を十分幸せものだと思っていた。


分相応に幸せだと、日々神に感謝の祈りを捧げていた。


だというのにこれではあんまりだ。


この国、トリプトファは四方八方それはもう周辺のあちこちにダンジョンがあり常にスタンピードに怯えながらも逆にそのダンジョンのおかげで成り立っている国だ。


住民に例外なく冒険者になる事が義務とされ街中での武器の所持が許されるどころか推奨されている我が国は周辺国家では蛮族の王国と蔑まれている。


そんなこの国の国王様は賢王とか名君と呼ばれる事はないものの優しくて人気な王様だ。


奴隷制度を無くしたいという国王様の想いのもとこの国では奴隷はそれはもう高い。


そしてとんでもない悪事を働いて爵位を剥奪された者が行き着く先が奴隷商人としての職だった。


奴隷商人とは奴隷のための奴隷とされていて、奴隷に危害を加える事や飢えさせる事は許されず僅かな給与から自腹で奴隷の世話をしなければならない。


そして奴隷になるような者は悲惨な過去や体の状態から社会復帰ができないと判断されたこの国での救済処置だ。


ちなみにここに来るような犯罪奴隷の大半は食い詰めて自分たちから王城に押し入り名目上犯罪奴隷と名称されているだけだ。


国王様は民に優しいが故に悪人には容赦しない事で有名だ。


奴隷商人をみればそれがよくわかるだろう。


だからこれだけ聞けばなぜ民が飢える事を許すのかという疑問がでてくるかもしれないが答えは簡単でこの国には本当にお金がないからだ。


スタンピードに備えるためにこの国では常に鉄が不足している。


ダンジョンの成果で鉄を買い武器を作りその武器で魔物を狩り素材を売る。


この国は常に火の車だ。


当然鉱石が取れる山が一つもないわけではない。


しかしこの国では鉱石を掘る時間があれば一匹でも多く魔物を狩って他国から鉄を買い武器にしたほうが早いしスタンピードが防げる分安全に国を守り国力を高められる。


実際他国が鉄の輸出を制限したら即座に攻め入ると我が国は宣言していてそれが蛮族と呼ばれる理由の一因として大きいのも確かだろう。


そんなこの国の奴隷になれた私はとても運がいいほうだった。


私は一人っ子として大切に愛情を受けて育ってきた。


とても幸せな日々を送っていた。


あの日までは。


様々な攻撃に耐性があるとされ忽ちに様々な状態異常を発生させるヘドロを撒き散らしてくる危険な魔物スライム。


そんな魔物達が跳梁跋扈するダンジョン蠢く毒沼。


そのダンジョンがスタンピードを起こした。


これがスライムなどでなく普通の人型の魔物ならもしくは獣の魔物なら被害もここまで大きくはならなかっただろう。


しかし相手はスライムだった。


素早いほうではないが核を破壊しなければ死ぬ事は無く再生し続ける。


打撃には強く斬撃も器用に核をずらして避けてしまう。


焼いても凍らせても核さえ無事なら再生し、背が低いのでほとんどの武器では狙いにくい。


そんなやっかいなモンスターが私の街を襲った。


いくらわが国の戦士が民が強かろうとスタンピードにはひとたまりもない。


その脅威が恐ろしくて今の国の強さがある。


王国の庇護下とは言ってもわたしの村に救援を送るには王都どころでなく一番近くの街ですら遠すぎた。


そうしてわたしの村は滅びた。


わたしはスライムにヘドロをぶちまけられた衝撃で井戸に落ちて頭をぶつけて意識を失っていたらしく助けてくれた人の顔も知らないうちに治癒院に運ばれた。


しかし高価なポーションはとても一般市民に使えるようなものじゃなかった。


わたしの怪我は最低限は治ったが傷跡は残ってしまって治療の間に冒険者としてやっていくには難しいレベルまで落ちてしまった。


この見た目では働くこともできない。


武器だって買うお金もない。


こうしてわたしは奴隷になった。


ひもじくても命の危険はないし最低限ご飯も食べれる。


こうしている間にもうレベルは1まで落ちてしまった。


奴隷になった時点で再起など望めないことはわかっていたしこの国で奴隷を買うような奇特な人間もいないだろうとわたしは人生に妥協すると同時にそこをわたしの幸せの位置と定めてこれ以上悪いことにはならないと思い込んでいた。


だけどその人は現れた金の刺繍が入った高そうな服を着た貴族らしい人。


中からでも話は聞こえていた。


魔物の囮に私たちを使うと言っていた。


しかもどうやら私たち全員買うつもりらしい。


終わりだ。


私たちはもう終わりだ。


この国では珍しいがよその国ではそういう残酷な真似を楽しむ貴族がいると聞いたことがある。


しかし私たちはまだそんな残酷な人間が存在することを今に至っても信じることができていなかった。


そのひとは目の下にとても深い隈があってそれ以外マイナスな特徴のないやさしそうな顔をしていた。


隷属契約の宣誓の儀をしていた時も現実味は感じなかったが着々とダンジョンへと向かう準備が整っていき恐怖で私たちはだんだんと現実を理解していった。


いや、させられてしまった。


そしてダンジョンに放り込まれた時、私たちはもう涙が止まらなかった。


道楽で殺されるであろう悔しさに、そしてなにより明確な死の恐怖に正常な呼吸もできず、狂ったように激しく主張する心臓もう言われた通り前に進みながら怨嗟の念から溢れ出しそうな言葉を飲み込んだ。


そして気付くと私たちはダンジョン最深部にいて何もしていないうちにダンジョンが死んでいた。


保おけている私たちにいるはずがないと思っていたその人は適当に私たちに労いの言葉をかけた。


そしてなんだか引きつった顔をして私たちにお金を渡して私たちから逃げるように街で待機しているように告げて姿を消した。


そして私たちは自分たちの体の変化に気づいた。


それは半ば都市伝説のように噂として広まっていた話。


一気にレベルが大幅に上がると起こることがあるというレベルアップによる体の治癒。


それが私たちの体に起きていた。


さすがに失くなってしまったものは元には戻らなかったがみんなの体がとても健康そうなベストな状態になっている。


わたしも急いで自分の体を確認してみたがただれて痛くて痒くて見るに堪えなかった肌が赤ちゃんの肌みたいに綺麗になっている。


今がどういう状況なのか何が起こったのかはまるでわからない。


でももしかしたら私たちは終わりなんかじゃないおかもしれない。


もしかしたらこれから始まるのかもしれない。


肩を抱いて嬉し泣きしながら笑っているみんなを見てわたしは今日も神に祈った。


だけど今日の祈りは諦めの感謝の祈りじゃなく、今回の出会いが希望の始まりであることを願い、祈りに込めた。

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