第6話 強襲の殺戮兵器

「いやー!これは素晴らしいですねー!」

 メルが去った後の地下施設。その一室で博士は手を叩いて喜んでいた。

 「誰?新しい研究員?」

 博士の横で、ショコラが訝しげに見ている先には、三人のメイド服を着た女がいた。目を閉じてじっとただそこに立っている。

 「これはですね、あの子が言うにはロボットなんですって。データが欲しいからってこっちに回してくれたんですけどね」

 「ふーん。あの子って誰?」

 「んー?秘密主義って言うんですかね。昔一緒に仕事した事もありますけど、今は何処に居るかも分からない子ですよ」

 「あっそ。で、そんな人に貰ったこのロボットをどうするの?」

 質問はするが全く興味がなさげである。

 「メルちゃんにぶつけるんですよ。強い人達と行動を共にしているんでしょ?良いデータが取れると思いませんか?」

 「知らないわよ。て言うか、連れ戻すの諦めて無かったのね」

 「当然ですよ。あの子は貴重なサンプルですよ。諦めるなんて出来ませんね」

 「そっ。じゃ、私はこれで」

 部屋を出て行こうとしたが呼び止められる。

 「あぁ待ってください。また、お願いしてもいいですか?」

 「何?」

 「この子達がメルちゃん達と対峙している時に、監視しておいて欲しいんですよ。万が一にもメルちゃんが殺される事があってはなりませんからね」

 「はいはい。その時はちゃんと行くわよ」

 「頼みますね」

 ショコラは、博士の言葉が言い終わらない辺りで部屋から出て行った。

 「いやー。楽しみですねー。どういうふうになるんでしょうねー」

 部屋には博士の不気味な笑い声が響き渡っていた。



 昼頃。何でも屋の三人は外にいた。

 「待ちやがれ!」

 シュヴァル達が追いかけていたのは、毛並みが綺麗に整っている綺麗な猫だった。袋小路に追い詰めて後は捕まえるだけの状態になっている。

 「何でも屋はこういう事もするのだな」

 「そうですぜ。なんてったって、世界平和の手伝いから世界滅亡の手伝いまでなんなりとご相談くださいが何でも屋のキャッチコピーですからね」

 「そうなのか」

 「そんなキャッチコピー作った記憶はないぞ!」

 袋小路の入り口を塞いでいる二人に、猫に翻弄されているシュヴァルが言った。

 「だんなー。こっちに逃がしてくだせぇ。捕まえやすから」

 「ああ!いくぞ!」

 逃げやすい様に道を作ってやると猫はシュヴァルの横を通って後ろの二人に向かって走っていく。

 「行ったぞ!」

 「任してくだせぇ」

 「よし」

 近付いてきた猫にハウンドが飛びつくが、ジャンプされて軽く躱されてしまう。しかし、そこにすかさずメルが両手を伸ばして捕まえる事に成功した。

 「よーし。捕まえたー」

 「やりやしたね。お嬢」

 「ナイスだメル。助かったわ。ありがとな」 

 捕獲されてからは堪忍したのか大人しくしている猫の顔を覗き込んでみる。

 「おー。これが猫なのか」

 「可愛い顔してしたたかな生き物が猫ですぜ」

 「そうなのか」

 「変な事教えんじゃねぇよ」

 ハウンドのいつもの調子に溜息をつく。

 「取り敢えず、依頼者に猫を届けに行くか」

 三人は、依頼人の元へと向かって歩いて行く。



 「ミーちゃん、すぐに見つかって良かったな」

 「そうだな」

 「楽な仕事でしたねー」

 「ちょっと苦戦したけどな。でもまぁ、こういう依頼ばっかだったら良いよな」

 依頼を完遂した帰りの道、先程の依頼について会話が弾んでいた。

 「あの猫可愛かったな」

 「大体の猫はあんなんじゃないか?」

 「そうなのか?」

 「だんなー。嘘教えちゃいけねぇや。お嬢。帰ったらネットで検索してやりやすぜ」

 「おー。楽しみなのだ」

 「お前も変な事教えんじゃねぇぞ」

 他愛も無い会話をしていたその時

 「メルお嬢様。お迎えに上がりました」

 三人の前に現れたのは、三人のメイド服を着た女だった。真ん中に艶やかな長髪の女、両隣には短髪のボーイッシュな女、他の二人よりも背が低く子供っぽく見える女。

 「おい。最近こんな事無かったか?デジャヴを感じるんだが」

 「奇遇ですねだんな。俺もでさ」

 「私もだ」

 溜息をつき、気だるげにシュヴァルは聞く。

 「お前ら、なんか用かよ」

 「メルお嬢様に用があるだけなので、貴方方に用はありません」

 「モテモテですねお嬢」

 「人気があるという事か?」

 「変な奴らばっかに人気出てもな」

 「悪い気はしないぞ」

 「あんまり調子にのるなよ。ああ言って近付いて来て、油断したとこをぐさっ、っと殺られるかもしれないからな」

 「おー……それは怖いな」

 「お話は済みましたか?ではお嬢様、博士の元へ帰りましょう」

 女達は一歩近付いてきた。

 「博士?お前らはあいつの仲間なのかよ」

 警戒度を強めて怪しみながらシュヴァルが一歩前に出る。ハウンドはメルの傍に寄る。

 「だんな」

 「行け。俺が相手する」

 「シュヴァル」

 「メル。どんな事があっても諦めんなよ。俺達がいる」

 「うむ」

 ハウンドが突然メルを小脇に抱えて、女達とは反対側に走り出し、横道へと抜けて行った。

 「貴方達、追いかけなさい」

 すぐさま両隣の女達がシュヴァルに向かって走り出した。

 「行かせるかよ」

 二刀流になり待ち構えるのだが、長髪の女が右手を伸ばして人差し指と薬指が開き、そこから鎖が飛び出してきた。それに左手の刀を絡め取られる。

 「ぐっ!?なんだそれ!?」

 驚いている最中、鎖が巻き戻ろうとしているのか強く引っ張られる。

 引っ張られないように必死に踏みとどまっていると、長髪の女が飛び上がって距離を詰めてきた。左手を曲げると、手首から刃が飛び出してきた。

 右手の刀で弾くように防ぐが、刃を引っ込めながら曲げていた手を戻し今度は刀身を掴んできた。動きを制限されて両脇から二人の女が抜けそうになっているので、二本の刀を離して拳銃に持ち替えようと考えた矢先、長髪の女が目の前で口を大きく開けた。

 「あぁ?」

 そこから、銃口のような丸い筒状の物が出てきた。直感的に嫌なものを感じたので、咄嗟に体を後ろに引き相手の顎を思いっきり蹴り上げる。女の頭が上を向き、口から出ていた銃口から重い音が響いたと思ったら上空に弾が発射されて、空中で爆発した。

 「なっ!?」

 目の前で起こっている光景に驚いている間に、刀にかけられていた力が緩んだのを感じ、瞬時に拘束から逃れて間合いを取る。周りに目をやるがすでに女二人の姿は無かった。

 (ハウンドを信じるしかないか。それよりも……)

 改めて女の姿を見るが、何処をどう見ても普通の人間に見える。

 「おいおい。お前の体はどうなってんだ?人間かお前?それとも、手品師かなんかかよ」

 姿勢を正した女は口の筒を戻して一礼をしながら喋り始めた。

 「流石でございます。データの通り、お強いですね。お味方様もさぞ抵抗されるのでしょう。ですが無駄ですよ。メルお嬢様は連れて帰ります」

 「意味分かんねぇ事言ってんじゃねぇよ。お前はなにもんなんだって聞いてんだ」

 「私は、RH-01。分かりやすく言うとロボットでございます」

 「ロボットねぇ……」

 訝しんで見るが、先程の事を目の当たりにしているので強く否定出来ない。

 「まぁいいか。それならそれで、お前をぶっ壊してさっさとあいつらの後を追いかけさせてもらうわ」

 「それは出来ません。貴方を排除してメルお嬢様を追いかけるのは私ですから」

 「あぁそうかい!」

 言い終わると同時に、右手の刀を横回転するように投擲するのに合わせて走り出す。01は左手首から刃を出して向かってきていた刀を弾くと、既に距離を詰めていたシュヴァルが左手の刀を横に構えて思いっきり横斬りを繰り出していた。その刀身は01の首目掛けて振られたのだが、甲高い金属音が鳴り首を切り落とすことは出来なかった。

 「くっそかてぇな」

 01は左手で刀を握り、右手首から刃を出してシュヴァル目掛けて突き刺してきた。それを、刀から手を離して避けてすぐさま蹴りを01の横顔に繰り出した。ガードが間に合わずに01は吹っ飛び建物に叩きつけられた。その際、刀から手を離してそのまま地面に落ちる。シュヴァルは01を警戒しながら二本の刀を拾う。

 「凄いですね。ここまで動けるのですか」

 何事も無かったかのように立ち上がる。

 「ちっ。全然効いてねぇのかよ」

 「この程度でしたら問題ありません」

 「頑丈だねぇ。そこまで強く作らなくて良かったのによ」

 01は左手を真っ直ぐ伸ばして全ての指をシュヴァルに向ける。

 何かを察して、舌打ちをしながらハウンド達が通った横道とは違うとこに向かって走る。

 指の先端が一斉に開き、そこから無数の弾丸がばら撒かれ始める。

 「一体いくつの武器があんだよ!」

 間一髪横道に入り難を逃れて、そのままそこを刀を仕舞いながら真っ直ぐ駆け抜ける。追ってきた01は道には入らずに出入り口から左手を伸ばして再び撃ち始めた。

 なんとか反対側の出入り口に辿り着き射線を切る。

 二丁の拳銃を取り出し、特殊な弾を一発ずつ込めた。

 「さて」

 振り返ってどこから来ても対処出来るように拳銃を構えながら辺りを見回す。その時、少し離れた所に小石が落ちてきたのが見える。不審に思って見上げると、建物の屋上から身を乗り出してこちらに左手を向けている01の姿を視認出来た。

 「上かよ!?何時の間に!」

 言いながら前進する。上から弾丸が降ってくる中、二つの銃口を01の足元に向けて撃った。着弾と同時に爆発して崩れていく。

 体制を崩して落ちる寸前に屋上に付けられている手すりに向かって右手を伸ばして鎖を射出する。

 「やらせるか!」

 01の意図に気付き、足を止めて射出された鎖に向かって通常の弾丸を連射して鎖の軌道をずらそうとする。

 数発の弾が当たり、鎖の軌道がずれて手すりに絡ませる事が出来なかったので、01は背中から地面に向かって落下して叩きつけられた。

 「何という事でしょう」

 ぼそっと呟いて立ち上がろうとしたその時

 「おらぁ!」

 上から刀を持ったシュヴァルが飛んできていた。そして、そのまま右腕の関節部分を狙って刀を突き刺した。

 01が上半身を起こそうとしながら、左手首から刃を出してシュヴァルを刺そうとする。それを、左腰の刀を右手で抜きながら払うように防ぎ、両手で柄を素早く持ち左腕の関節部分を狙って全力で横斬りを入れる。関節から上部分を斬り飛ばしすぐ近くに重い金属音が鳴った。

 女は自分の両腕が使えなくなったのを見てすかさず口を開いて銃口を出すが、シュヴァルは既に刀を突き下ろす体制になっており、弾を出す前に刀が口を貫き地面に突き立っていた。

 「ガッ……アガッ……アッ……」

 何か重要な部品が壊れたのか、ピーと高い音を立ててたと思ったら瞳が無くなり白目になって動かなくなった。

 「はぁ……つっかれた」

 刀を仕舞いながら息をつく。倒れたまんまの女を一瞥してから、ハウンド達を追いかける為走り出した。



 シュヴァルが交戦している最中、ハウンド達にもその危機が迫りつつあった。

 嫌な物が後ろから迫ってきてるのを感じたハウンドはぼそりと呟いた。

 「ったく、だんなは何してるんでい」

 「ハウンド、シュヴァルは……」

 心配そうに見つめるメルを見て、それを払拭するように言葉を言い放つ。

 「安心してくだせえ。あの人がそうやすやすとやられるようなたまなら、こんな街で暮らせてねぇですよ。それに、だんなの事、信じてるでしょ?」

 「……うむ!」

 ハウンドの言葉を聞いて吹っ切れたように見える。

 「そんじゃ、お嬢。力を使って空に逃げてくだせぇ。そんで、ドンとかあの姉妹とかに助けを求めるんですぜ」

 「ん?それはどういう――」

 聞き終わらないうちに、突然足を止めて抱えていたメルを空に向かって放り投げた。

 「おー」

 暢気に間の抜けた声を出しながら翼を出して羽ばたき、少し高い所に上がる。

 メルを投げた後、後ろを振り向くと、二人の女が近付いて来ていた。

 「03。お嬢様を」

 「うん。私にしか出来ないもんね」

 二人にしか聞こえない声量で何かを決め、03と呼ばれた子供っぽく見える女が跳躍した。そして、背中辺りから飛行機の翼のような物が生えて足の裏から火を噴き飛び上がって行く。

 「マジかよ」

 驚きつつも、左手に苦無を三本持ち03に目掛けて投擲する。しかし、軽く躱されてメルの元に行かせてしまった。

 「つっかまえたー!」

 両手を伸ばしてメルに近付くが、羽ばたいて更に上へと上昇して躱す。

 「そう簡単に捕まると思っているのか」

 背を向けてハウンド達から遠ざかっていく。

 「むむむ。逃がしませんよー」

 03もメルを追って小さくなっていった。

 「お嬢。無事に逃げ切ってくだせぇ」

 二人を見送る後ろから、もう一人の女が迫っていた。振り返って相手を見据える。

 女が右手を曲げて手首から刃を出して突進してくる。その勢いのまま右腕を突き出してきた。

 ハウンドは、突き出された刃を躱して、そのまま左手で腕を掴み、右手で女の胸倉を掴んで相手の勢いを殺さずに背負い投げた。そして、左手に苦無を四本腕から取り出して、体制を戻す途中で投げ飛ばした女に向かって苦無を投げる。

 女はそれを余裕の表情で何もせずに全て受け入れた。体に刺さると思いきや金属音が鳴り全ての苦無が地面に落ち、女は綺麗に着地した。

 「ありゃー。どうなってんだこりゃ」

 目の前で起こった事に軽く驚きつつも、すぐにある考えに行き着く。

 「さっきの女のこともあるし、もしかしてあんた等、人間じゃねぇな?」

 「さぁ?どうでしょうね?」

 ハウンドの方に向き直り、左手首からも刃を出して走り出した。

 「はーあ。どう戦いやすかねー」

 女をじっと見て身構えていると、右手を前に出して根元が鎖に繋がれた刃を飛ばしてきた。それを躱すと、今度は左手の刃を突き刺そうとしてきたので裏拳の形で腕を弾き、左手で顎に掌底を打ち込んだ。

 (良いのが入ったと思いやしたけど)

 女の右腕が少し動いたのを見逃さなかった。鎖が巻き戻り刃を元の位置に収めると、そのままハウンドに腕を振り抜いてきたが、それよりも早く後ろに飛んで女との距離を取る。ついでに、ピンを抜いた爆弾をその場に置くように優しく投げていた。そして、数秒後に爆発する。

 距離を取ったその場でぐっと伸びをして、首や肩を軽く回しながら小刀を右手で取り出して構えると、鎖に繋がれている二本の刃が飛んできた。

 「やっぱ殺せてねぇですよねー」

 呟きながら迫りくる刃を二つとも弾くと、その後ろから黒い球体が飛んできていた。女が口を開けて筒状の物を出しているのが見える。爆弾だと思い、瞬時に左腕を斜め上に伸ばし、細いワイヤ―の先に小さい突起が付いた装置を起動した。突起を建物の壁に差してワイヤーを巻き戻しつつ上へと逃げる。その瞬間、黒い球体が爆発して、そこから大人が一人包めるくらいの大きさの網が飛び出してきた。それは力なく地面に落ちる。

 「あぶねぇあぶねぇ」

 上がり切る前に建物の壁を蹴ってワイヤーを戻しながら女の後ろ側に着地する。女も、刃を元に戻していた。

 お互いにらみ合い、同時に相手に向かって走り出した。女が刃を振り、ハウンドが躱したり小刀で弾いたりして拮抗しているように見えるが、相手の隙と弱点を探しているうちに次第に押され始めてしまう。

 ハウンドは一旦距離を取る為に後ろに大きく飛んだ。女は左手の刃を仕舞い、掌を上に向ける。すると、手の中心が開き、そこからまた黒い球体が発射された。

 「また網かよ」

 言いながら女の顔を見ると、明らかに人を馬鹿にしている笑顔を浮かべている。それに違和感を覚えて、近くの通路に入りに行く。

 「あっ。逃げた」

 その背中に向けて右手の刃を飛ばすが、すんでの所で躱されて壁に刺さった。それが合図だったかのように黒い球体が弾ける。そこから、無数の何かが勢いよく散らばり建物や地面を傷つけていく。

 「炸裂弾ですかい。あっぶねー」

 顔を横に向けて後ろで起こった事を逃げながら確認する。

 小刀を仕舞い、左腕を上に伸ばし、ワイヤーを射出して建物の屋上に見えている手すりに巻き付けて、ワイヤーを巻き戻しながら飛ぶように屋上へと移動した。

 急いで上からさっきまで戦っていた場所を見てみると、女の姿が無くなっていた。

 「ありゃ、お嬢の方に行かれたか?」

 メルが飛んで行った方を見た時、後ろから足音が聞こえたような気がしたので振り向くと、走ってきていた女が跳躍して右手の刃を振り下ろそうとしているところだった。

 咄嗟に手すりを掴み上で逆立ちをしたと思ったら、力強く押して女と入れ替わる様な形になった。

 お互い地面に着地して向き直る。ハウンドの方が少し早く動き左手を伸ばしてワイヤーを女の右足に絡ませ、力いっぱい引いた。女は体制を崩してそのまま半時計回りで引きずられていく。ワイヤーの長さを調節しながら何回転かして体が宙に浮いてきた所で体の半分くらいを手すりにぶつけながら屋上から放り出した。女は何もせずにただ地面に落下していく。

 足に絡めていたワイヤーを外して、次に手すりに巻き付けてハウンドも下へと勢いよく降りる。地面に付いてワイヤーを回収しつつ女を見ると、地面に空を見上げる形で落ちていた。

 左手をつき起き上がろうとしているので、すかさず距離を詰める。それに気付いた女は右手の刃を飛ばした。それをぎりぎりで躱して近付いていく。十分に近づいた女の背中側に回り首を足で絡めて押さえ、両腕を伸ばしてワイヤーを建物の上側に飛ばし突起を突き刺す。巻き戻す勢いでお互い宙に浮いたのを感じてワイヤーを建物から外し回収。そのまま放物線を描くように落ちていく。そして、思いっきり女の頭を地面に叩きつけた。

 服を叩きながら立ち、女を見下ろす。首がへし折れて中の機械の部分が剥き出しになっており、動かなくなってしまった。

 「ふーやれやれ。倒せて良かったー」

 手を組んで上に伸ばしながら、大きく息をついた。そんな時

 「あれ?ハウンドじゃねぇか。何やってんだこんなとこで」

 シュヴァルが横道からぬうっと出てきた。

 「だんな。死んで無かったんですね」

 「当たり前だろうが。そう言うお前も倒せたんだな」

 足元に転がっている女の姿を見ながら言う。

 「あたりめーですぜ」

 「そうか。それよりも、メルはどうした」

 「お嬢は空に飛んで逃がしたつもりだったんですけど、こいつらの仲間の一人も飛べやしてね。無事に逃げ切れてると良いんですが」

 「そっか……くっそ。なんなんだこいつらは」

 頭を掻いて溜息をついた。

 「取り敢えず、メルを追うぞ」

 「うぃっす」

 二人はメルが飛んで行った方向に向かって駆け出す。



 ハウンドに投げ飛ばされて飛び立った後、メルは03をずっと振り切れずにいた。

 「うーむ。お前、しつこいぞ」

 「当然です。メルお嬢様を捕まえる為に来ましたから」

 さっきから、捕まえようと近付いたら躱され近付いたら躱されるの繰り返しである。その顔はずっと笑みを浮かべており不気味である。

 「いい加減、駄々をこねるのは止めて下さい」

 「駄々をこねてる訳ではない。そもそも帰る気はないのだ」

 「だったら、無理矢理連れて帰るしかありませんね」

 両手を伸ばして掌をメルに向ける。中心が開きそこから黒い球体が射出された。

 「む。なんだ」

 音がしたので振り返り状況を確認して、左手に盾を出現させて身構える。

 球体が爆発してそこから出てきた物は、ただの捕獲網だった。

 「おっ。だったら」

 右手から剣を出して、近づいてくる網をめちゃめちゃに切り刻んだ。

 「こんなんじゃ無理かー。それなら」

 03はメルが網を切ってる間に素早く後ろに回り込み、また両手を伸ばす。今度は全ての指から小さな鉤爪が付いている紐が飛び出てきた。それをメルの翼に絡める。

 「可哀想だけど、抵抗するなら乱暴にやるしかないよね」

 絡めた紐を引っ張ろうと力を込める。が、急にメルの翼が消えて力無く落下していく。

 「あれ!?嘘っ!?」

 慌てて追いかけようとしたその時、一回転してからもう一度翼を出して力強く羽ばたき、03の目の前を飛び抜けるついでに剣で斬りつけた。が、後ろに下がられて躱されてしまう。

 「その翼どうなってるの!?出し入れ自由なんて聞いた事無い!」

 「お前の翼も出し入れ自由では無いのか?」

 「ああ。確かに」

 顔を背けて納得しかけるが、すぐに訂正する。

 「いや、消える翼は聞いた事、あれ!?」

 顔を戻した先にメルの姿は無く、飛び去っていた。

 「んー!逃がさないってば!」

 すぐに追いかけ始めて、両手を伸ばして先程の黒い球体を飛ばす。後ろから捕獲網が襲い掛かるが振り向いて先程よりも手数を少なくして切り刻む。

 気付くと、その後ろから鉤爪が付いた十本の紐が迫っていた。

 すぐさま左掌の上にパチンコ玉くらいの光り輝く白い球を無数に出して向かってくる紐に同時に飛ばして全ての紐を撃ち落とした。

 「えー!そんな事も出来るの!?」

 驚いている間に、もう一度掌の上に、今度は野球ボールくらいの光球を出して、03に向かって投げる様に飛ばした。それは、綺麗に顔面に当たり弾けた。

 仰け反っている隙に一気に近付き、両手で剣を握り上段に構えて首元辺りに斬り下ろした。しかし、刃が通らずに甲高い音を立てて止まってしまう。

 「おー。硬いな」

 一旦武器を消して距離を取った。03は態勢を立て直して紐を仕舞い、両手を曲げて手首から刃を出した。

 「怒りましたよー」

 言い終わると同時に、メルに急接近をする。

 右腕の刃を突き出すが、左手の盾で防がれ、左腕の刃も突き出すが、同じく右手に出現させた盾で防がれる。すると

 「これでも喰らっちゃえ!」

 「む?」

 言い終わるや否や、両目を見開いたかと思うと、いきなり強烈な閃光が放たれた。

 「っ!?」

 それをもろに受けてしまい目が見えなくなる。

 「い、一体なんなのだ」

 突然の事に訳が分からずにうろたえてしまう。そんなメルから距離を取りゆっくりと円を描くように動きながら、三度両腕を伸ばして掌の中心を開けて黒い球体を発射する。

 (これで任務は完了だね)

 03はほくそ笑む。球体が弾けて捕獲網がメルを包み込もうとする。だが、なぜだか捕獲網が来ている方向に瞬時に体を向け、右手に剣を出すと、ばってんを書くように斬りあっさりと難を逃れた。

 「うそー!?」

 驚きのあまり声を上げてメルに自分の居場所の手がかりを与える。

 「そこだ!」

 左手に光球を出して、声が聞こえた方へと放った。

 「ひゅぃ!?」

 光球は無情にも03の顔の横を通り過ぎていく。

 「外したのか?」

 (危ない危ない)

 口を押えながら立ち位置を移動する。

 「うーむ。目が見えないのは不便だな」

 その場で棒立ちになりながらぼそりと呟く。

 メルの後ろ側に移動した03は、両腕を伸ばして今度は指の先端を開いてタイミングをずらして十本の紐を飛ばして、メルの腕や体に巻き付かせた。

 「むむむ」

 「ふふふ。さぁ。大人しくしてください!」

 激しくもがいてみるが全く抜け出せる気がしない。

 「むー。ならば」

 剣を消して、両掌に先程出したパチンコ玉くらいの光球を無数に出現させて上に向かって投げた。人差し指だけ立てて手首を曲げてすぐに下に向ける。すると、無数の小さな光球がピンと張っている紐に向かっていく。一本二本と切っていき、そんなに苦労せずに拘束から抜け出した。

 「……」

 03はことごとく捕獲に失敗した事実に直面して体が震え始めた。

 「んー。やっと見えるようになってきたな」

 手で庇を作り何度か瞬きをする。後ろを振り返ると、俯きながらぶつぶつと何かを言っている03がいた。

 「鬱陶しいなぁ連れて帰れば良いんだから腕や足無くても良いのかな最悪頭だけでもでも生きて無きゃ駄目かそうか生きてれば良いんだからやっぱり腕とか足くらい無くてもいいかそうだよそっちの方がコンパクトで持ち運びやすいじゃんそうだよそうしようそれで決まりだ」

 「なんか、とても物騒な言葉が聞こえるな。聞き間違いだろうか」

 首を傾げると、突如顔を上げた03が両腕の手首から刃を出して真顔のまま物凄い勢いで突っ込んできた。右腕を引きそして突き出す。顔の横すれすれだったが顔を動かすだけで難なく躱したのだが、今度は刃が縦になるように腕を動かし、そのまま勢いよく下げる。咄嗟に体を横にして躱し翼を羽ばたかせて一気に距離を取った。

 先程までずっと笑みを浮かべていた者が急に真剣な顔つきで殺しに来る勢いで迫ってくると恐怖を覚えるのだが、メルは特に何も感じておらず、純粋に今してきた事について聞いていた。

 「今、腕を切り落とそうとしたのか?」

 その質問には答えずに顔だけ向けて、左腕を伸ばしたと思ったら鎖に繋がれた刃を飛ばしてきた。右手に剣を出して横斬りをして刃を弾く。その直後、体を向けて突進してくる。右腕を振り上げて下ろされる前に距離を取り、振り下ろされた刃は空を斬った。

 03は淡々と次の行動に移る。口を大きく開けると、そこから筒状の何かが出てきた。

 「面白い体しているよな。一体どうなっているのだ?」

 余裕を見せながらも、盾と剣は出現させたまま待ち構える。

 筒状の何かから大きめの弾丸が発射された。それは、メルから離れた所で爆発する。中からは、無数の小さな弾丸が出てきて襲い掛かってきた。

 「!?」

 咄嗟に右手の甲にも盾を出現させて、左手の盾で顔の辺りを右手の盾でお腹辺りに構えて防ごうとする。防いでいる所は当然の様に防げているのだが、何もしていない足回りに飛んできていた弾丸はどうしようもなく、数発が掠っていく。貫通する事は無かったが、じわりと血が滲む程度の傷は作った。

 「あえあえー?」

 筒を口の中にしまい、人を馬鹿にするような笑みをしながら続ける。

 「研究所では採血をするのに苦労したってデータが入ってるんですけど。なーんだ、簡単に傷を付けれるじゃないですかー。あそこの人達は何に苦労してたんでしょ?アハハハハ!」

 「お前、さっきまでと全然違うな。同じやつか?」

 「優しくしてあげてたんじゃないですかー。それなのに、言うことを全然聞いてくれないんですもん。だったら、力を示して無理矢理言うことを聞かせるしかないですよね?」

 「凄い考え方だな。今のお前だったらこの街にすぐに馴染めると思うぞ」

 「それは褒めてくれてるんですか?」

 言い終わってすぐに口を大きく開けた。

 「させぬ!」

 いつの間にか出現させていた両掌の上の光球を03に向かって放り投げた。一つは顔面に当たり仰け反らせて、もう一つは真上に止まったと思ったらメルが掌を下に向けると連動しているのか下に向かって勢いよく落ちて、03の顔面に追撃の一撃をくらわす。立ち位置が動き、背中が地面を向く形になった。

 「ほんとに……鬱陶しいなぁ!」

 顔の前を払う仕草をして前面を睨みつけると、既に接近し終えていたメルが剣を振り下ろす直前の姿があった。

 先程と同じように、刃は通らずに首元で止まってしまう。

 「だからー!そんなのは効かないんだって!」

 刃を突き刺してやろうと腕を引くが、その時に気付いた。メルの左手の上に、直径100cm程の光球が出来上がっている事に。

 「な、何それ!?」

 「落ちろ!羽虫野郎!」

 大きな光球を03の胸元辺りに押し付けて、地面に向けて光球毎吹き飛ばした。

 「ぐぎいいぃぃぃ!?」

 攻撃から逃れようともがくが、あえなく地面に激突する。

 「くっそー。いくつか回路がいかれたかなぁ。あのクソガキ。絶対コンパクトにして持ち帰ってやる!」

 上半身を起こして上空にいる子供を睨みつける。すると、さっきまで持っていた剣とは違う、大きな剣を持ち切先を向けて物凄い速度で突っ込んできていた。

 「えっ?まっ――」

 なにがなんだか理解する前に、お腹辺りから上に向かって二つ開くように切り裂かれていた。

 少し離れた所に着地を決めたメルは、壊れて動かなくなった03に向かって言い放つ。

 「お前も、ちゃんと傷が付くではないか。それとさっきの言葉、この街にすぐに馴染めるって言ったのだが撤回するな。二人が言っていたぞ?この街では、相手が子供でも油断するなとな」

 もう聞こえていないであろう相手に喋っていると

 「おー。派手にやりやしたねー」

 「無事か?メル」

 「シュヴァル!ハウンド!」

 二人がひょっこりと脇道から現れた。

 「二人共無事だったのだな!」

 「当たり前だろ。こんな奴らに負けてたらとっつぁん達に笑われるわ」

 「余裕余裕。縛りプレイでもしてやろうと思いやしたよ」

 二人の様子を見て、ほっと胸を撫で下ろす。

 「メルこそ、足怪我してるんじゃないか?」

 先程つけられた傷は既に塞がっており、血の跡だけが残っている。

 「大したことはないぞ。かすり傷だ」

 「そうか」

 平然としているメルを見て気にしないことにした。

 「しっかし、こいつらは何だったんだろうな」

 「お嬢は何か知らねぇんですかい?」

 「いや。会った事も見た事も無いぞ」

 「そうですかい」

 「ロボットだし、なんかデータとか入ってんじゃないか?」

 「派手にぶっ壊しちまったし、残ってねぇんじゃねぇですかね」

 「くっそ、やり過ぎたか」

 「あっ、あの人なら何か分かるかもしれぬ」

 不意にメルが大き目の声を上げる。

 「ん?誰だ?」

 「エミリーだ」

 「誰だそいつ」

 「パンプキン家で働いてるメイドだ」

 「へー。で、なんでそいつなら任せられるんだ?」

 「エミリーは機械が大好きなのだ」

 「……それだけか?」

 「うむ」

 「そうか……」

 「取り敢えず、持っていってみやしょうぜ」

 「めんどくせーけど、そうするかー」

 シュヴァルはその場で伸びをした。そして、早速作業にあたるのだった。



 「マリア―。今日の夕飯は何かしら?」

 「そうですねー。お姉様は何がいいですか?」

 バックに品物を入れてとても上機嫌で歩いていて、買い物の帰りのように見える。

 「うーん。マリアは料理が上手だから、何が良いかって聞かれると逆に困るのよねー。あれも食べたいしこれも食べたいってね」

 「ふふ、ありがとうございます」

 「どんなお料理にも対応出来るように食材は買っておりますのでどんな物でもご心配はなく」

 姉妹の後ろにはメイドの二人も付いて来ている。

 「もしも必要な物があったら、アメリアちゃんがすぐに買ってきてくれるもんね」

 「貴女に言われてイラっとしたから、貴女が買ってきてね」

 「そんな!……ヘリ使ってもいい?」

 「どんだけ歩きたくないのよ」

 「まぁ。エミーに買いに行かせたらいつ帰ってくるか分からないから行かせないけど」

 「酷いですサリアお嬢様!ちゃんとそんなに時間かからずに帰ってきますよ!」

 「どうだか。あんた、前に買い物頼んだ時、一時間くらい帰ってこなかったじゃない」

 「そ、それは……」

 「結局、全然帰ってこないからアメを向かわせる事になったし」

 「その節は、大変お世話になりました」

 「全く……もう少ししっかりしなさいよ」 

 「ふふふ。あら?お姉様、あれ」

 「ん?何?」

 談笑していたらいつの間にか屋敷の近くまで来ており、その門の前で何やら怪しい動きをしている三人組を見付ける。

 「よし。ここに捨てとけば良いだろ」

 「どうしやすかい。事情は説明しやすかい?」

 「良いだろ別に。あいつらだし」

 「ですね」

 「こらー!何やってんのよ!」

 「げっ。家主が帰ってきやがった」

 「あっ!あんたら!」

 三人組は、何でも屋だった。

 「あんた達、こんなとこで何やってんのよ」

 「何って、ゴミ捨てだけど」

 シュヴァルが示した先には、ボロボロになった等身大の人形のような物達が置かれていた。

 「はぁ!?ここはゴミ捨て場じゃないわよ!」

 「お前がそう思ってるだけで、俺達にとってはここはゴミ捨て場だから」

 「何意味分かんない事言ってんのよ!」

 「因みに、それは何なんですか?人形にしては、何か違うような」

 「あぁ。なんだっけ。ロボットとか本人は言ってたけど」

 「ロボット!?」

 その単語を聞いた途端、後ろにいたエミリーがすっ飛んできて、人形に近付いた。

 「こ、これが。ロボットなんですか」

 「あ、ああ」

 「やっぱり、エミリーなら興味を持つと思ったぞ」

 「メルちゃん!詳しく!詳しく教えてもらっていいかな」

 息遣いが荒くなっており、まるで不審者のようである。

 「お、おぉ。詳しくと言われても、私達はこのロボット達に襲われたのだ」

 「ふむ……つまりこれは戦闘用って事ですか。あれ、この配線は――」

 ぶつぶつと独り言を呟きながらロボット達を触り始める。

 「詳しくって言っときながら、一人の世界に入ってないか?」

 「エミリーはそういう人なのよ」

 「そうか。じゃ、俺達はこれで」

 「ちょっと!この粗大ゴミを持って帰りなさいよ!」

 「何言ってんだ。ここに捨てにきたんだから持って帰る訳ねぇだろうが」

 「あんたが何言ってんのよ!」

 シュヴァルとサリアは睨み合いになる。

 「エミリー、こいつらからデータとかは取り出せないだろうか」

 「どういう事ですか?」

 「お嬢をつけ狙う奴らがいい加減鬱陶しいんですよ。お嬢に案内してもらって叩き潰しに行くにも、相手の手札とか調べられるなら調べて知っときたいですからね」

 「成程成程」

 「なになに?つまりは、私達にお願いをしに来たって事ですの?」

 サリアの顔が途端に悪い事を企んでいる顔になる。

 「それならそうと早く言ってくれれば良いのにー。ちゃんと頼めば聞いてやらない事も無くってよ」

 「こういう反応が容易に想像出来たからさっさと退散したかったんだがな」

 「エミリー。出来そうか?」

 「分かりませんけど、やれるだけの事はやりましょう!」

 「とても生き生きしているな」

 「はい!今とっても楽しいです!アメリアちゃん!運ぶの手伝って!」

 「はいはい」

 「しゃーねーから手伝ってやりやすよ」

 「私もやるぞ」

 シュヴァルとサリアを無視して、和気あいあいとロボット達を敷地内に運び入れ始める。

 そんな状況を無言で見つめ続けて、その内お互い顔を合わせる。

 「覚えときなさいよ!」

 「何をだよ!」

 サリアが捨て台詞を吐き走って門をくぐって行く。

 「待ってくださいお姉様!」

 シュヴァルの前を通る時に、一度お辞儀をしてからマリアも後を追って行った。

 「ほんと。あの二人が姉妹なの嘘だろ」

 「一人でなに言ってるんですかい」

 作業を終えて戻って来たハウンドに不審がられてしまう。

 「いや気にすんな。それより、作業は終わったのか?」

 「終わりやしたよ」

 「そうか。そんじゃ帰るか」

 「うぃーっす」

 二人は帰ろうと歩き出すが、メルが止まってる事に気付く。

 「どうしやした。お嬢」

 「おい。まさか、また変な事考えてるんじゃないだろうな」

 「いや。どちらかと言うと、無性に腹が立ってきたのだ」

 メルのその言葉に、二人は驚き目が見開く。お互いその顔を見る。

 「諦める気が無いのなら、こちらから諦めさせるしかないなと思ってきている」

 「くははは!メルも大分この街に染まってきてるな」

 「そうか?」

 「ああ」

 「何でも屋の一員から街の一員まで後少しですぜ」

 「おー。頑張るのだ」

 三人は自宅へと向かって歩き始めた。その光景を、遠くのビルの上から見ている少女がいた。ショコラだ。

 「まさか、あれまで倒しちゃうなんて」

 驚く様子も無くぼそりと呟いた。

 「メルが負けるとは思って無かったけど、あの二人も勝つなんて。ほんとに強いんだ」

 何でも屋が道の角を曲がり姿が見えなくなった後に、屋敷の方を見る。

 「ロボットは回収しろとか言われてないし。帰ろっと」

 振り返ってちょっとだけ小走りで進んだ後に黒い透明の翼を出して、空へと飛んで行った。



 研究所の一室、砂嵐を映しているモニターが数個並べられており、その前に椅子に座っている博士がいた。

 「そうですか。だから、メルちゃんを連れ帰れなかったのか。くくく、そうですか。生きていたんですね。全く、あの方も人が悪い。教えてくれれば良いのに」

 独り言を囁きながら不敵な笑みを浮かべるのだった。



 ロボット達が襲撃してきた日から数十日が過ぎたある日。何でも屋に、エミリーを先頭にして、パンプキン家の面々が乗り込んできた。

 「メルちゃん。前のとこでは何をされていたの?」

 入ってきたと思ったら、いきなりハウンドとゲームをやっているメルに詰め寄っていく。

 「おいおいおい。来ていきなり何言ってんだ?」

 「あんた達が捨ててったロボット、修理して調べたら、やばい情報が出てきたのよ」

 そういうのはサリアだ。

 「やばい情報?」

 「天使の力がどうとか、化け物がどうとか、それを得る為にはメルちゃんの血がどうとか」

 「メルちゃん、貴女は一体何に関わってたの?」

 ゲームをやる手を止めずに、淡々と喋り始める。

 「あいつは、人が天使の力を手に入れる事が出来るかと言う実験を私の血を使って行っていたのだ。だが、殆どが失敗。拒否反応だかを起こして人間の形を保っていられずに、化け物みたいなよく分からん生き物に変形していった。そして、そいつらは生命活動を維持出来ずに朽ち果てていくのだ」

 「知ってたのね……メルちゃんって一体……?」

 ゲーム画面を見ながら、翼を出して左手を伸ばし盾と光球を掌の上に出して見せた。

 「そ、それ……」

 「さっきっから言葉が出てる、天使と言うやつらしい」

 「俺達も最近知った」

 出した物を全て消して、再びゲームをやり始める。

 「で、その実験に成功例はいるのか?」

 シュヴァルが興味なさげに聞いた。

 「私が知る限りだと、ショコラっていう子供一人だけだな」

 「へー。そうか」

 「えっ。何それ。なんでそんなに淡泊なの」

 「ああ?お前らみたいにメルの過去にそこまで興味無いからだよ」

 「お嬢の過去を根掘り葉掘り聞こうとするなんて、お嬢様方はお下品ですわねー」

 「すっごいイラッっとしたんだけど」

 「まぁでも」

 何でも屋の三人が一斉に立ち上がる。

 「今すぐに、研究所をぶっ潰しに行こうと思ってたんだけどな」

 「えっ?はっ?今すぐ?」

 「ああ」

 サリア達の横を通りながら続けた。

 「わりぃな。情報を持ってきてもらってよ。助かった。これで、遠慮無しにやれる」

 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 部屋を出て行こうとする三人を呼び止める。

 「まだなんかあんのか?」

 「私達も行くわ!」

 「はぁ?」

 「お姉様!?」

 姉の突然の発言に驚きはするものの、すぐに苦笑いを浮かべるマリア。

 「何言ってんだお前。関係無いんだから来なくていいんだぞ」

 「ふざけんじゃないわよ!あんなもん置いて行って修理させといて関係無いなんて言わせないからね!」

 「修理は勝手にやった事じゃ」

 「それに、メルちゃんの友達として見過ごせない!だから、一緒に行くから!」

 シュヴァルを押しのけて、サリアは部屋を出て行った。

 「強引過ぎるだろ……」

 「申し訳ございません。お姉様が無理を言ってしまって」

 マリアが頭を下げて謝ってきた。

 「つくづく思うけど、ほんとに姉妹なのか?」

 「れっきとした姉妹ですよ」

 「全然信用できねぇわ」

 「そこは同意でございます」

 「ちょっと!何してんの!早く行くわよ!」

 サリアから催促がくる。

 「はーい。今行きまーす」

 パンプキン家が次々と出て行く

 「はーあ……今回も色々疲れそうだな」

 「まぁ。こんな日もありやすよ」

 「どんまいだシュヴァル」

 何でも屋の面々も部屋から出て行く。



 パンプキン家の屋敷に着いて最初に目に付いたのは、やはりあのロボット達だった。

 「おい。こいつら平気か?襲って来ないだろうな?」

 何でも屋の面子は恐る恐る近付いて行く。

 「大丈夫です!プログラムを書き換えましたから!」

 「お帰りなさいませ。マスター」

 「あっ、ただいまー」

 マスターと呼ばれたのはエミリーだった。

 「あれ?お前らのどっちかじゃないのか?」

 シュヴァルは姉妹を見て言った。

 「あの子が直した時にそう言うようにしたみたいよ」

 「だって!私が直したんですから当然です!」

 両手を腰に当てどや顔で言う。

 「いや、まぁ、そこはどうでもいいんだけどよ」

 「で、こっからどうするんですかい」

 「しょうがないから、うちのヘリを出してあげるわよ」

 片手を腰に当ててもう片方で髪をかき上げてどや顔で言う。

 「メイドがメイドなら主人も主人だな」

 「この家の奴は皆こんな何ですかい?」

 「一緒にしないでもらっていいですか」

 「あはは……」

 アメリアは全力で否定し、マリアは苦笑を浮かべた。

 「みなさーん!早く乗ってくださーい!」

 いつの間にか、ヘリに乗っていたエミリーが中から手を振りながら言った。

 「よし!いざ!敵の本拠地へ行くわよ!」

 「なんでお前が仕切ってんだよ」

 「おー!」

 「メルもノらなくていい」

 和気あいあいとしている様を見て、シュヴァルは溜息交じりにぽつりと呟いた

 「ピクニックに行くんじゃねぇんだぞ……」

 各々がヘリに乗り込み、メルが元いた研究所へと向かって飛び立っていった。

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