【第二ノ怪】紫陽花の思い出 その18
「ゆうきはねぇ、紫陽花が好きでね、よく
おばあさんはぽろぽろと涙をこぼしながらゆうきくんのことを語ってくれた。
「だからね、ゆうきのことになると宗教でも頼りたくなってしまうの。藁をもつかむ思いでね。今までの人たちには嫌な感じがしたから追い返していたのよ、でもね、あなたたちからはそれが感じられなかった。だからこうして話を聞いているの。ゆきこがごめんねぇ、今までさんざん騙されてきたから、ああなるのも仕方がないのよ」
このおばあさんはそういうものを感じやすい類なのだろう。
実はというとここに来たものの、俺達にはゆうきくんのことを誰からも見えるようにはできない。力が足りないのだ。
ゆうきくんを見ると、ゆうきくんもこちらを見て、
「お兄ちゃん、ありがと。僕もう満足だよ。ママに会えたんだもん。これ以上お願いしたらお兄ちゃん達が困っちゃうよね! だからもういいよ」
と言って母親のもとに駆け寄った、どこか寂しそうな顔で。
とりあえず、ゆうきくんのママに会いたいという願いはかなった。俺たちはこれ以上この家族が悲しまないようにするため、一刻も早く出ていこう。
「信じてもらえないのは重々承知です。ですが、ゆうきくんはあなたに会うことができた、もう満足だよと言いました。俺たちはこれ以上あなたたちが悲しまないように帰ります。本当にすみませんでした」
そう言って帰ろうとしたとき俺のスマホが鳴った。
俺が無視しようとすると、
「それはでたほうがいいと思うよ。なんかそんな気がする」
智也の感はテスト以外大体当たる。それを信じて電話に出た。
『あ、もしもし、
「え、鏡ですか? す、すみません! 鏡はありますか? 手鏡でも何でもいいのですが……ほんとにすみません!」
俺は幸さんの言いつけ通り、鏡を用意してもらった。
俺はこの時、内心ではこれから何が始まろうとしているのかと少しワクワクしてしまった。
『じゃあ、始めますね。『鏡は通ずる、心と心、内に秘めし、真なる心。姿形を映し出せ』』
電話越しでもその内に秘めている‘‘何か‘‘を感じるのに、幸さんのその声は優しく、清らかであった。
その言葉を発した後、主に持っていた手鏡に異変が起きた。鏡の中がぐにゃりと回りだしたのだ。するとどうだろう。鏡の中に幸さんが映ったのだ。
『おーい! 聞こえてますか? 電話は切りますね。ここから遠隔でやっていこうかと思います』
幸さんは鏡の中でぶんぶんと手を振り、にこにこしてまるで当たり前かのように振舞った。ゆうきくんの親族たちはあんぐりと口を開けている。
「ど、どうなっているの!? 何かの手品!? ねえ何なのよ!」
ゆうきくんの母親は半ばパニック状態に陥っていた。
「えっと、スマホでもよかったんじゃ……」
俺はパニック状態になってるゆうきくんの母親を見てそう感じた。すると幸さんはわなわな震えだして、こう答えた。
『私もスマホでやりたいのはやまやまなんですよ! でも全然使えないんですっ! だからこうして鏡でやっているんですよ! 鏡は不思議な力があるといわれていますからね……鏡は使えるのに、どうして……スマホはダメなんですか……!』
なるほど幸さんもうっぷんがたまっているらしい。持っていた護符を握りつぶして訴えた。その後はっと我に返ったかのようにいそいそと握りつぶしていた護符を丁寧に伸ばす。ほんとに見ていて飽きない人だな。俺は心無しかほっこりしてしまった。
『おい……』
顔が緩んでいたのだろうか、ひょっこりと画面の横の方から出てきた
「で、この後どうすればいいんですか~?」
一連のやり取りを見ていた智也が退屈そうに、かつ、せんべいをぼりぼり食いながら聞いてきた。
『鏡をゆうきくんの方に向けて下さい。これで出来るはずです! たぶん!』
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