【第二ノ怪】紫陽花の思い出 その16
***
俺はようやく落ち着きを取り戻した。
うん、バカ猫のことは忘れよう。このままじゃ、何回切れることになるかわからない。
それと、大事な何かを忘れているような……はっ!
「ゆうきくん! ゆうきくんはどこですか!? まさか消滅してるんじゃ……」
俺が焦っていると、
「はるちゃん、ねぇ、こっちだよ」
「お、お兄ちゃん……」
「ゆうきくん! 無事だったんだね! よかったぁ……今までどこにいたの?」
「おいおい、黒いの倒してからずっと俺たちの近くにいたけど。はるちゃんが暴走してるせいでゆうきくんが怖がっちゃって、出てこれなかったんだよね~」
ねーと言うとゆうきくんが躊躇いながらもうんうんとうなずいた。
「だからね、俺もさっきいることに気付いたの」
智也がドヤ顔で付け足すように答えた。今まで一緒にいましたみたいな顔しといてさっき気付いたんかい! そんでもって何故ドヤ顔なんだ……
そんなことはともかく、嗚呼、俺は何ということをしていたんだろう。なんて理性のかけらもない行動をしていたのだろう。後悔しても仕方がないことである。今後は気を付けよう。でもなんであんなに切れてたんだろ……幸さんの事を罵られたからだろうか? それだけじゃない気がするが……まあこのことはもう考えないようにしよう。思い出すとまた再燃してしまう。
「ゆうきくん、ごめんね! 怖がらせてごめん! それと、無事でいてくれてありがとう」
俺はできるだけ優しい声と笑顔で謝罪と感謝の意を示した。
「うん! いいよ! ぼくね、お兄ちゃんの笑ってる顔のほうが好き!」
――ほっこり
俺たちが癒されていると、俺と猫との距離を置くため離れていた幸さんが戻ってきた。
「そろそろ夜が明けますね……。結界を解きましょう。『解除』」
ふわぁっと空にあった薄い膜のようなものがキラキラと星屑が降ってくるかのように解かれた。それと同時に夜が明けた。
地平線から見えてくるまばゆい陽光が結界の欠片に反射して、より一層キラキラと煌めく。
それは、明るいときにしか見ることのできない特別な星だと俺は感じた。
「うーん……おわったぁ! やっと終わったよ! 眠……」
智也はくわぁと大きなあくびをして歩き出す。それにつられて俺もあくびをした。
「帰ったらやることだらけですね」
「帰りましょうか。我々の日常に」
幸さんはいつの間にか眠っていた黒猫を抱きかかえながら、優しい笑顔でそう言った。
「そうですね。帰って俺はもう少し寝ます」
俺はふふと微笑をこぼし、いつもの日常へと帰っていった。
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