【第二ノ怪】紫陽花の思い出 その13

 シャランシャラン……チリリンチリリン…………


『僕を目覚めさせたんはお前らかぁ?』

『ふわ〜よく寝た……いい目覚めや』


 男の声と女の声と共に、鈴の音がした。どんどん近づいて来る。


『おおっ、こりゃ当たりやん! 花の気と計り知れない気を感じる子やな!』

『あらあら、まだ自分の力に気づいてないみたいやねえ。面白い』


 着物を着た美しい少年と少女だった。

 年は少年の方は15歳くらい、少女の方は17歳くらいに見えた。だが話し方がもっと年上な感じがした。

 頭には2人とも角があった。

 少女の方は赤髪で、オレンジ色の目をしていた。

 少年の方は、なんていうか白橡しろつるばみっていうのかな……白茶色みたいな感じの色の髪で、目がいろんな色が入っており、ピンクに近い赤に、黄緑、紺……と入っている。なんかみんな情報過多やな!



(鬼っていうのかな……あれ)


『そうや! 我らは鬼! 人知を超えた最上級の妖怪。ま、今はちと訳あって、刀になってしもてるけどな』


 俺の心の声が聞こえているらしい。ビシッとカッコつけて、得意げに突っ込んできた。


『その通りや。ここは妾達の支配する空間。心の内を読むのは容易いことよ。でもぉ、うれしいなぁ……17歳くらいに見えるって! ほんま嬉しいわぁ!』


 キャッキャと飛び跳ねて喜んでいる。なんか思ってたのとちゃう……


『めっちゃかわいいってぇ! えっえっ、もう褒め倒しやん! やーもう、あんたにする! 久遠智也ね! 久遠って……まあいいわ! 妾は十二鬼神将が1人、菊花きっか菊花ノ太刀きっかのたちなり。契約しようぞ!』


 あー智也はそんなこと思ってたんだ……というか軽くない? そんな簡単に契約しちゃっていいの?


『菊花のせいで、契約が簡単なものやと思われたやんけ! 春翔よ、契約はなぁ、一生をこの者に捧げるということなんやで! だから普通は慎重に契約者を決めるんや! 菊花はなその場のテンションで契約するから後で痛い目に遭うんやで! 気ぃつけろ!』


 怒ってる怒ってる。この人怒らしたらあかんタイプや……


『うっさい! じじいは黙っとれ! 妾は智也がええんや! こんなイケメンやし、心の中綺麗やし、完璧やんか! 何があかんねん!』

『ああん! 小娘は黙って、僕のいうこと聞いときゃあええんや! だいたいなぁ……』


 ぎゃあぎゃあと喧嘩しだした。

 智也はデレデレもじもじしている。いや、止めてくれよ。


 本当にこんな時にやめてほしい。何故か急にワナワナと怒りが込み上げてきた。気付いた時には声に出していた。


「幸さんと奏多くんが危ないんだよ! ぎゃあぎゃあ言ってないで、さっさと力を貸しやがれ! ボケナスがぁ!」



 ピクッと白橡の髪の鬼が反応した。



『よう言った! それでこそ僕の春翔や! 最後のボケナスはいらんけどな。契約はなぁ、本来、その者の決意を聞き取る儀式なんや。僕は椿貴つばき。十二鬼神将の1人。椿丸つばきまる、それが僕の妖刀名。首落としの刀。こんな僕やけど契約してくれるん?』


 ちょっと憂いを帯びた顔をして、手を差し出してきた。俺はその手を取った。


「そりゃあ、可愛い女の子が良かったけどな! こうなりゃ、男でもなんでも椿貴でも全然いい」

『なんじゃそりゃ、反応するとこそこかいな! あはっ、面白い子や……断然気に入った! 僕が力を貸したる。存分に暴れておいで』


 椿貴が、刀の姿に変わる。智也と契約した、菊花も刀の姿に変わっていた。


 椿貴は、赤い椿の美しい絵が施された黒色の鞘をしており、こじりふちつばかしら、といった装飾は金でできていた。つか下緒さげおの部分は赤だった。刀身は、峰の部分がほんのりと赤くなっており、椿貴を見て、芸術品だと思った。言葉には言い表せない程、美しかった。


 菊花は、菊の花の絵が金で彩られ、鞘は黄色。一見、黄色に金色で見えにくいと思うかもしれないが、そうではない。下の黄色が金の装飾を目だ立たせている。柄は黒、刀身は白一色。菊花もとても美しかった。



 鬼達が刀に変わると、止まっていた時間が動き出した。


ズドオオオオオン


「くっかはっ……」


 奏多かなたくんが獣に吹き飛ばされた。木に激突する。


「奏多くん!」


 慌ててさきさんが奏多くんの方に駆け寄ろうとする、が、しかし、それを邪魔するように幸さんに向かって、獣は小さな手を槍のように変形させ、攻撃しようとしていた。それと同時に弱っている奏多くんにも同様のことをしようとする。


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