【第二ノ怪】紫陽花の思い出 その12

 俺は咄嗟の事すぎて、脳が追いつかなかった。体が硬直して動かない。そんな危機的状況の時だった。


「はーるちゃん! 諦めるなんて、らしく無いなぁ!」



 誰かが黒い手の大群に向かって飛び蹴りしたのだ。


 獣は手を引っ込め、悶え、苦しむ。

 蹴ったのは智也ともやだった。


「嘘〜蹴れちゃった! そのまま通り抜けるんじゃ無いかって心配してたんだけど、良かったあ! あ、はるちゃん大丈夫〜?」

「…………はあ?」


 俺は一瞬の出来事に驚きすぎて、訳が分からなくなっていた。

 え……物理攻撃オッケーなんだ……え……智也すげえ……

 智也は尻餅をついていた俺の手を引いて立たせてくれた。


「おーい、はるちゃん? 大丈夫? もしかして頭打って阿呆になった?」

「いや、そうじゃ無いけど……お前ってもしかしてめっちゃ強い?」

「俺ぇ? まぁはるちゃん知らないかもだけど、小さい時、空手とかやってたよ!」

「いやあでも、めっちゃ小さかった時だけだろ……何でそんなに強いんだ……」


 智也に対して納得がいかず、険しい表情になっていた所に、少し涙目の幸さんが来た。


春翔はるとさん! 大丈夫ですか? 何処か怪我とかして無いですか? ほんとーに大丈夫ですか?」


 険しい表情になっていた俺を見て、さきさんは心配そうに駆け寄ってくれた。


「俺は全然大丈夫です! 幸さんこそ、大丈夫なんですか? 突き飛ばされてたじゃ無いですか!? あーこんな所怪我して……俺の事ばかりじゃなくて、自分のことも心配してくださいよ!」


 俺は幸さんの怪我をした頬を見て、そっと傷に触れた。

 幸さんはピクッと反応して頬を赤く染めた。




「おい……俺がいない間に何やってくれてんだ……殺すぞ……」


 奏多かなたくんがものすごい形相で割って入ってきた時、やっと自分が仕出かしたことを理解した。


「っす、すみません! 痛かったですよね! ほんとすみません!」


 俺は慌てて、幸さんの頬から手を離した。その瞬間、奏多くんに胸ぐらを掴まれた。幸さんはと言うと耳まで真っ赤にしている。

 智也はニヤニヤしながらも奏多くんを羽交締めしていた。


「なんだよ……その目! っやめろ! 本気でやめろ!」


 俺も多分真っ赤になっていたに違いない。




「はっ、来ます! 皆さん、戦闘の準備してください!」


 突然、あんなに真っ赤だった幸さんが真剣な表情になって、叫んだ。



――ズリズリズリ



「喰ウ喰ウ喰ウ喰ウ喰ウ……喰ッテヤル!」


 怒りを露わにして、黒い獣は襲い掛かる。



「春翔さん! 智也さん! これを使ってください!」


 幸さんは咄嗟に経典から何かを取り出して、俺たちに投げた。刀だった。


「その刀は妖刀です! あなた達の思いに反応してくれる筈です!」


 そう言って、幸さんは戦闘に戻った。



「これが妖刀……綺麗だ……」


 その時だった。時が止まったのだ。

 周りを見渡しても動いているのは、俺と智也しかいない。


「これって……この妖刀のせい?」

「多分な……」

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