【第二ノ怪】紫陽花の思い出 その7

 男の子は下を向きながらボソッと呟くと、またどっと泣き出した。

 もう一回言うが、周りの人には見えていない。だがしかし、俺たちには見えている。

 なにもないところを見て、あたふたとしている様子を周りの人がちらりと見てくる。

 完全に頭がおかしいと思われている目だ。


(やべぇ、めっちゃ変な目で見られてる……)


「あわわわ、泣かないでよ〜俺も泣いちゃうよ〜あわわわわわ」


 智也ともやはとても焦っている。周りの目を忘れて。

 こうなると智也は使い物にならない。俺がしっかりしなくては!



「ンンンン……そろそろ場所移そうか。ねぇ君の名前は? ここから動ける?」

「グスっ……僕の名前……ゆうき……動けるよ……」

「じゃあゆうきくん、おうちはどこかわかる?」

「おうち……青いちっちゃなお花がいっぱい集まってて、いっぱい咲いてるところ……」


 困った。青いちっちゃなお花がいっぱい集まる……ってなんだ? オオイヌノフグリか? いやオオイヌノフグリは集まらないよな……マジでなんだったっけ? クイズ系はこれっぽっちもダメなのである。ほんとに苦手なのだ。

 続けて聞いてみる。


「ンンン……近くにはなんかあった?」

「んと……公園があって、いっつもママと遊んでた。おっきな滑り台があってね、ビューンってなってとっても面白かったの! またママと一緒に遊びたいなぁ……」


 いつの間にかあんなに大泣きしていたゆうきくんが笑顔になっていた。

 こんな3、4歳の小さな子供の中にある記憶なんて、ほとんどあってないようなものだ。しかし、少ししか無いからこそ濃く、濃密に記憶に残っているのかもしれない。



「はああ……泣き止んだ……ちょっと疲れちゃった」


 智也は少し疲れた様子だったが、落ち着いて話ができる状態になった。


「一応聞いとくけど、聞いてた?」

「も〜ちろん! めっちゃ聞いてたよ! あれでしょ、青くて小さくて花が集合してんでしょ? そりゃ紫陽花だよ」


 パチンと女子が見たら一発で惚れるような煌びやかなウインクとフィンガースナップをして智也は答えた。ま、眩しい……これはイチコロだぁ……イケメンのウインクってすげえ……


「はるちゃん……いくらでもウインクしたあげるよ。ってそこちゃうし〜!」


 俺が眩しそうな顔と動作をすると、智也がつっこんでくれた。

 とても気持ちがいい。いつもは俺がつっこむ方だから何だか新鮮な感じがする。と言うか智也はクイズ、得意なのか? あの智也が!? あれ、俺がおかしいのか?


「お、お兄ちゃんたち……?」


 ゆうきくんは戸惑っているご様子。ゆうきくんをもっと笑顔にしようと思ってやったことだったが、あまりわかっていなさそうなので、そろそろ本題に入ろうと思う。


「まぁ茶番はここまでにしといて、そろそろ本題に入るとしよう。ゆうきくん、ゆうきくんが言ってたお花って紫陽花っていうお花であってる?」


 スマホで検索をして出てきた紫陽花の画像を見せながら質問する。ゆうきくんはジーっと見ながら答えた。


「うん! このお花! 紫陽花って言うんだぁ……」


 ゆうきくんは目をキラキラさせて俺のスマホを見ている。亡くなってから知るってなんか変な感じがする。なんでゆうきくんは幽霊になったんだろう。


「はるちゃん! この辺で紫陽花が群生してる公園ってあそこしか無いよね? ほら、俺たちもよく遊んでた『四片公園よひらこうえん』だよね!」


「あ〜あそこか、そこしか無いよな」



四片公園よひらこうえん

 晴嵐市の中で1番大きな公園で、梅雨の時期になると一面紫陽花というくらい紫陽花がそこらじゅうに綺麗に咲き誇り、大阪の中では1番紫陽花の数があるらしい。別名『四片紫陽花庭園』という名がついているくらい紫陽花が日本中で見ても有名なのである。公園にはそれはとても大きい滑り台がある。近所の小学生は『爆速滑り台』と呼んでいる。その名の通り爆速で滑って行く。大きいし、急だし、長いからだ。ちなみに尻に段ボールやらなんやらを敷かなければ、尻が死ぬ。火傷をする。良い子のみんなはちゃんと段ボール敷けよ!

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