第37話 セントラスカッコー
バートとは駅近くのレストランで、昼食をする予定だったのを中止にした。バートが、売店でサンドイッチを買ってくれた。バートは、ロボットが壊れたことを残念がったが、オットーが無事で良かったと言った。魔法市に戻れば、ロボットはきっと直ると、元気のないオットーとアリスを慰めた。列車の中で、四人で食事をした。
「バート、例の物は手に入ったの?」
ミランダが、ゆっくりと紅茶をすすった後に聞いた。
「ああ、何とかな。一番いいのが手に入った。これで、ホットケーキが美味しく食べられる」
バートは、頬に笑みを浮かべて満足した顔で、紙袋からガムシロップを取り出して眺めた。褐色のガラス瓶に、ロイヤルガムシロップと書かれたシールが貼り付けてあった。バートは割らないように用心深く、ガムシロップの瓶を元の紙袋に収めた。オットーはバートのうれしそうな表情を見て、少し元気が出た。
「魔法市まで後少し、この列車の旅もそろそろ終わりだな」
バートが椅子に腰掛けてくつろいだ。
「その前に用意しなければならない物は、全部そろえたのかな」
「フライパン、鳥かご、古い辞書、ボールペンか、曲がった鉛筆、こたつの足、洗濯バサミ、虫眼鏡は用意したわ」
ミランダが、メモ用紙に書いたリストを読み上げた。みんなミランダに注目した。
「子供用の傘は、オットーが持っているでしょ」
オットーはうなずいて、耳の裏に隠した探し物の箱を手品のように、さっと出した。その小さな箱に慎重に手を入れた。箱の大きさからは、想像できない大きさの子供用の傘が出てきた。
「これでいいんだよね」
オットーが、ミランダに子供用の傘を渡した。人に渡すには恥ずかしいくらいに、穴が空いている。
「これで全部そろったわね」
ミランダが、ポンと軽やかに手を打った。
「魔法市の一つ前のセントラスカッコー、最後の町だ。何か必要な物を購入するといい」
「でも、これだけの物、どうするの?」
オットーがリストの品物を眺めながら、困ったような顔をした。テーブルの上には、それと全く同じ物が順番に並んでいた。アリスやミランダが買ってきた物を、かき集めてきたのだ。
「オットーには、まだ言ってなかったかね。魔法市に入る時に、ちょっとした審査があるんだ。それも変わったね。今では昔ほど厳しくないが、昔の名残で用意する物が決まっているんだ。それを提示しなければならないんだ」
バートが、フライパンをつかんで説明した。オットーは、曲がった鉛筆を手に取ってみた。それは心も曲がってしまいそうな、くねくねした鉛筆だった。
「それじゃあ、みんな降りる準備をしよう。もう直、セントラスカッコー駅に着く」
バートが、時間の読みにくい腕時計をのぞきながら眉をひそめた。みんなは慌ただしく、出掛ける支度をした。オットーは探し物の箱を耳の裏に隠し、忘れず切符があるかポケットを確かめた。念のため、アリスがオットーにテーブルの上の集めた物に、目印の丸を書いてくれた。これで盗まれる心配もない。オットーが願えば、探し物の箱から取り返すことができる。
引っ越しの家の列車は、定刻の午後二時四十分に、セントラスカッコー駅に停車した。列車から、ぞくぞくと色々な格好した乗客が降りてきた。オットーたちもその乗客に交じって、改札口へ向かった。バートを先頭に、にぎわう駅前通りを歩いた。観光客相手の露店も出ていた。ほとんどが、これから魔法市に向かう人たちだった。
「よし。せっかくここに来たんだから、町を観光して行こう。この町はあの町の隣だけあって、あれには寛大なんだ」
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