第23話 地下室のアジト
青白い不思議な光が数個、明かり取りのために灯されていた。壁の周りに棚や大きな箱が並んで、部屋の真ん中が大きく空いていた。
「しばらくここで警察が帰るまで、大人しくしていた方がいい」
女の子はマントを外して、ようやくふーと息をついた。マントを箱の上に置くと、その上に腰掛けた。オットーは、広い部屋の中をキョロキョロ見回していた。何とも不思議な場所だった。青白い光が部屋を優しく包んで、妙に落ち着く気がした。
「お帰り、アリス。無事だったか。その子は?」
背の高い青年が、壁際に立っていた。ずっと暗い壁に背をもたせて、腕組みしていた。誰もいないと思っていた部屋に、数人の影が現れた。さっきからそこに、思い思いの格好でじっと動かずにいたのだ。
「えっ、君もアリスっていうの?」
オットーは、部屋に響くぐらいの大きな声を出していた。
「そうよ。アリス・ダイア シンボルは猫よ。君は?」
アリスは人っ懐かしそうに微笑んだ。
「ぼくは、オットー・リドリー シンボルは小犬だ」
「何だ。名前も知らずに連れて来たのか?」
背の高い青年が、あきれた顔をして壁から一歩前へ出た。
「彼は、アイザック・ハーン シンボルは羊よ」
アリスが、背の高い青年をオットーに紹介した。
「さっき、君もっと言ったけど、私の他にアリスを知っているの?」
「ぼくの家庭教師のだよ。魔法のね」
オットーは助けてもらったお礼に、正直に答えた。
「その家庭教師って、大人の人なの?」
アリスが興味ありげに聞いた。
「年上だけど、まだ子供だよ。十二三歳くらいの」
誰かが、口笛を吹いた。ちょっと冷やかしも込めていた。オットーは振り向いたが、二三人の影が見えただけで、誰が吹いたか分からなかった。
「オットー、君も災難だったね。魔法の取り締まりがあるなんて、今まで一度もなかったのに。捕まった仲間も多いだろう。でもまあ警察も、そのうち帰るさ」
アイザックが、ちょっと眉根を下げて、溜め息をついた。
「そのうちって?」
「二三時間って、ところかな」
「でも、ぼく列車の時間があるんだ。急いで戻らなきゃ」
オットーは列車に乗り遅れたら大変だと、急にそわそわしだした。
「今出て行ったら、警察に捕まるようなものだぞ」
床にひざを抱いて座っている、男の子が叫んだ。黒いマントを頭から、すっぽり被っていた。
「どうして、警察に捕まるの? 悪いことしてないのに」
オットーが尋ねた。
「この町じゃ、魔法の道具を持っているだけでも、犯罪なんだ」
別の眼鏡をかけた、女の子が答えた。さっきまで毛布をかけた箱に座っていた子だ。それが立ち上がって、オットーの方へ二三歩近づいている。
「そんな。列車に乗り遅れてしまう」
オットーは子供用の傘で床を突いて、焦る気持ちを抑えられないでいる。
「出発は何時だ?」
アイザックが聞いた。
「三時五分だよ」
「それはお気の毒に」
アイザックは、首をゆっくりと振った。
「仕方ないよ。警察に捕まるよりは増しだよ」
眼鏡の女の子が同情するように言った。
「でも、ぼくもう行かなきゃ」
オットーが少しずつ後退りした。それをアイザックが強い語調で制した。
「ここでは、俺たちの規則に従ってもらうよ。勝手に外に出て、仲間を危険に曝されるのは困るからね。安全が確認されるまでは待つんだ」
「そ、そんな」
オットーは列車に完全に間に合わないと知って、しょげ返った。もうどうすることもできないのだ。
「まあ、ここなら安全だからゆっくりしていきなよ」
アリスが、落ち込んだ顔のオットーを慰めた。
「オットー。君、シールは持っているかい?」
小太りの男の子が、近づいて来た。肌が白く、新しい白のシャツを着ていた。「ラルフ・ウッド シンボルは、ハリネズミだ」と名乗った。
「シールって?」
オットーが、ラルフに聞き返した。
「シールと言ったら、魔女のクッキーに決まっているだろ」
ポケットから、すごい数のシールの束を出して見せた。
「ぼく、今一枚しか持ってないや」
オットーは魔法の市で、アリスに買ってもらった一枚をポケットから出した。狭い所に手が届く隙間のお守りだ。
「これは、珍しいシールだけど。ぼくはいらないな。誰かこのシールと交換する人いる?」
「君たち、魔法使いなの?」
オットーが恐る恐る尋ねた。
「魔法使いって? 魔法の市に来ている人は、みんな魔法使いだぞ。知らないのか」
ラルフが、シールの束をトランプのように切りながら答えた。オットーは首を振った。
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