第19話 魔法市
午後十二時を少し過ぎて、列車はマルケット駅に到着した。オットーたちはその町で魔法市が開かれると聞いて、訪れることにした。オットーは魔法市なんて初めてだから、列車を降りる前から、どんな不思議なことが待っているのか、と期待を膨らませていた。ミランダとアリスの後を付いて行った。駅の周りには高いビルが立ち並んだ、近代的な町並みだった。駅から十分ほど歩いた。高いビルとビルとの間に、オットーたちは魔法市を見つけた。魔法市というだけあって、怪しげな路地になっていた。オットーは、わーと思わず声をもらした。ビルに挟まれた長い道のずっと見えない向こうまで、道を挟んでたくさんの出店が並んでいた。地面にシートを敷いて、その上にたくさんの品物を置いていた。しかし、どれも使い古した物ばかりで、正直ガラクタも多かった。
「これが魔法の市なんだ。すごい」
オットーは興奮しながら、あっちこっちを見回した。どれもこれも初めて見る物ばかりだった。買い物をする時は、いつでも新鮮な気分になれる。これから出会う初めての物に楽しませてくれるからだ。
「ここにある物、全て魔法の道具なの?」
「そうよ。でも、ほとんどが普通の魔法の道具なの。特別な魔法の道具は、滅多にないから。これを使ってみて」
「何それ?」
「魔法の磁石よ」
アリスが、白い布鞄から小さな魔法の磁石を取り出した。オットーに渡した。
「それで、特別な魔法の道具を探すといいよ」
アリスが魔法の磁石を指差した。オットーは魔法の磁石を確かめた。針に反応はなかった。オットーは、がっかりして息をついた。
「特別な魔法の道具だからね。こういう所はなかなかないの。ここは要らなくなった物を売っているのだからね」
ミランダが、オットーに教えてくれた。
「あっ、魔女のクッキーのシールも売っているよ。でも、一枚百エンか」
新品が一個百エンだから、欲しいシールじゃないと、損した気分になる。オットーは、ちょっとシールを調べて、頭をひねった。
「どうしたの?」
アリスがオットーの側に立った。
「魔女のクッキーのシールがあったんだ。でも、ぼくお金持ってなくって」
「一枚選んで、買って上げる」
アリスはがまぐちの中身を確かめ、オットーに笑いかけた。
「本当に!」
オットーは急にうれしくなって、魔女のクッキーのシールを手に取った。でも、あまりいいシールは見つからなかった。身代わりのシールが五枚続けて出てきた時には、がっかりした。イタズラを見破る鏡に、いいことが起こる幸運の石、狭い所に手が届く隙間のお守り、部屋の掃除をしてくれるほうき、しかられても平気な鍋、冷めたコーヒーを温めてくれるコップ、オットーが欲しいシールは見つからなかった。仕方ないから、狭い所に手が届く隙間のお守りを手に残して、他のシールを返した。
「それでいいの?」
オットーはうなずいた。アリスはがまぐちから百エン取ってオットーに渡した。店のおばさんに、それをシールと交換した。オットーは買ってもらったシールをじっと眺めていた。それは、オットーが持っていないシールだった。でも、使い道が分からない。狭い所に手が届くって、どういう時だろう。あれこれ考えても、いい案は思い付かない。
「オットー行くよ」
いつの間にか置いていかれ、アリスが先の方で振り返ってオットーを呼んだ。
「今行くよ!」
オットーは慌てて駆け出した。オットーは、アリスに追い付くまで走った。ある出店の前で、ミランダが足を止めた。
「何を探しているの?」
アリスは、用心深く陳列された品物の中を探すミランダに尋ねた。その店にはまとまりのない、家財道具がバラバラに並べてあった。
「子供用の傘を見せてくれる」
「どうそ、自由に手に取って見て下さい」
頭に頭巾を被ったお婆さんが、手を出して勧めた。ミランダは家財道具の中から、子供用の傘を手に取って開いてみた。子供用の傘には、大きな穴が空いていた。
「これじゃあ、雨の日には使えないでしょ」
「日傘にはなるよ」
お婆さんは、恥ずかしそうに苦笑した。ただ並べているだけで、あまり売る気もないようだ。
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