第17話 カナモノシティー
夕食の最中、バートは翌日から別行動を取ることをオットーたちに告げた。特急に乗り換えて、ガムシロップを取りに行ってくると言った。
「この列車が追い付く頃には、用事は終わっているだろう」
早朝、停車した駅でオットーたちはバートと別れた。
「先に行ってくる。みんな私のいない間、気を付けるんだぞ」
バートは心配そうに言って列車を降りた。その駅から出ている特急に乗って、先に行っているというのだ。
残されたオットーたちは、次の停車駅のカナモノシティーで魔法のフライパンを探すことにした。停車時間は、一時間と余裕があった。その前に朝食は、オットーがアリスの代わりに、三人分のホットケーキを電気のフライパンで、五分ほどかけてゆっくりと焼いた。慎重に焼いたから、失敗もなかった。
朝食の片付けが終わり、町に出る準備ができた。列車はカナモノシティーに到着した。
オットーとミランダは、帽子を被った。アリスはサングラスをかけた。少しでも変装して、フライパンを盗んだ奴らに見つからないようにしたのだ。
カナモノシティーというだけのことはあって、プラットホームの出店は、ほとんどが金物のお店だった。ここなら世界中の金物が手に入る。どの店も商品をできるだけ多く陳列しようと、店先に商品もたくさん積み上げていた。オットーたちが物珍しそうに、店の様子をうかがっていると、店主が声をかけてきた。どうにか品物を見てもらおうと、大声を張り上げた。
「鍋はいかがかな? うちのは一級品ですよ」
「釜なら、うちが一番多いよ。うちの釜を買っていってくれ」
「フライパンのことなら、どんな物でもそろっているよ」
ミランダはフライパンと聞いて立ち止まった。小太りの店主に、小さな声で尋ねてみた。
「もし。ここに、火を使わないフライパンはありますか?」
そう聞くと、その店主は眉間にしわを寄せた。
「火を使わないフランパンだって。そんな物あるのかい?」
その店主は店の中をゆっくりと見渡したが、大きく首を横に振った。
「残念だが、うちにはそんな奇妙なフライパンは置いてないみたいだな。そうだ、そこの大きなテントのお店なら、うちよりも古いから、そういった骨董品を置いているかもしれないよ。行ってみなさい」
その店主は、わざわざ教えてくれた。オットーたちは、ありがとうと頭を下げてその店を離れた。間も無くその店主が言っていた大きなテントの金物屋の前に来た。
テントが大きいだけあって、これまで前を通ってきた金物屋よりも、品数も種類も多かった。オットーはここなら、何でも置いてあるような気がした。しかし、店先に店主はおらず、不在のようだった。その代わりに鉄でできた、子供くらいの人形が立っていた。目は電球で、鼻はフォークで、口は銅線を切った物だった。
「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」
その鉄の人形がしゃべったから、オットーはびっくと飛び跳ねた。ミランダもアリスも驚いた顔を見つめ合った。
「これ、ロボットだ」
オットーが、嬉しそうな声を上げた。
「これが、注文を聞いてくれるのかしら」
アリスが興味を持って、ロボットに話しかけた。
「ご注文は?」
ロボットが言った。
「火を使わないフライパンを探しているのだけど、あるかしら?」
ミランダは躊躇いながら、ロボットにゆっくりと尋ねた。
「探してきます。少々お待ちを」
急にロボットが動き出したから、またオットーたちはびっくりした。ちょっとぎこちないが、普通の人間のようにロボットは手足を振って歩いて、店の中へ入っていった。ロボットはすぐに戻ってくると、手には鍋を持っていた。
「これなんか、いかかでしょう?」
手にした鍋を差し出した。
「鍋じゃなくて、フライパンを頼んだんだけど」
ミランダが当惑した顔をした。
「フライパン? 間違えました。すぐに探してきます」
ロボットは、また店の中に引っ込んだ。店の奥でガサガサやって、戻ってきた。手には大きな釜を持っていた。
「これなんか、いかかでしょ?」
今度は、大きな釜を見せた。
「釜じゃなくて、フランパンを頼んだのよ」
アリスがロボットに、ゆっくりした言葉で教えた。ロボットは、間違えましたと言って、また店の中に戻ろうとした。そこで、店の中から誰かが現れた。この店の店主だ。帽子の代わりに、釜をかぶっていた。
「済みません。このロボット、もう古いから壊れているみたいです。フランパンでしたね。それで、どんなフライパンですか?」
「火を使わないフライパンよ」
ミランダが店主に丁寧に言った。それもこっそりと。
「火を使わないフライパンですか。最近、よく売れているので在庫がないかもしれません。ちょっと見てきますね。少し待って下さい」
釜をかぶった店主は、急いで店の奥に調べに行った。代わりにロボットが来て、これなんかどうでしょうと言った。ロボットの手にしていたのは、料理に使うコショウのようだった。
「それ、何に使うの?」
オットーは、またロボットが間違えたのだと思って聞いた。ロボットは、頭をポリポリかいて困った顔をした。
「それ、サビ落としのコショウだ。あまり使う機会がないけど、珍しい魔法の道具よ。サビた物に振りかけて、サビを落とすの」
アリスが、ロボットの鍋つかみのような手を見て言った。
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