第14話 魔法のフライパン

「朝食は、私たちの担当よ」

 アリスが、顔を洗ってきたオットーに呼びかけた。

「魔法のフライパンと、電熱のフランパン、どちらが早くホットケーキを焼くか競争しよ」

 魔法のフライパンは、パンケーキの生地を載せると、勝手に熱くなって焼いてくれる。ちょっと魔法で操作が必要だから、オットーには扱うことができなかった。

 アリスは魔法のフライパンを使って、十秒で一枚ホットケーキを焼いてみせた。十枚焼いて、五枚は黒焦げだった。アリスは、あまり料理が得意でないと言い訳した。オットーは、まだ一枚焼き上げただけだ。魔法には敵わないけど、電熱のフライパンでも美味しく焼くことができた。いつも母親の手伝いをしていたから、このくらいの料理なら朝飯前だった。

 朝食の準備が整うと、四人でテーブルに着いた。テーブルの上には、先ほど焼き上げたホットケーキの他にベーコンエッグと、紅茶が添えられた。紅茶には、レモンを輪切りにして、蜂蜜に漬けた物を浮かべてある。

 朝食を始める前に、バートがその日の予定を知らせた。その日は、クライタウンの町に用事があるから、一緒についてくるようにと言われた。

「そこは不思議な町で、昼間でもいつも夜のように空が暗いんだ。夜空が見えるわけではなく、日が暮れるまでは、空は分厚い煙に覆われているんだ。町中の工場の煙突から、真っ黒な煙が出ているんだ。その代わり、夜は一晩中明かりが点っていて、お店も開いている。真夜中だけ開くお店も多い。この町の路地は、いつも夜のように危険だからできるだけ大通りを歩こう」

 そんな町があるなんて、オットーにはちょっと信じられなかった。

「でも、それは無害な煙で、日光を遮るための煙幕なんだって。その町の市長は、吸血鬼じゃないかってもっぱらの噂だよ」

 アリスがオットーに話した。

「吸血鬼なんて、本当にいるの?」

「どうでしょ。他の町はどうか知らないけど。どうやらこの町には、そういった噂が多いと聞くからね。いるんじゃないかしら」

 オットーはミランダの言葉に背筋がぞっとするのを感じた。吸血鬼がいるにしても、絶対に会いたくなかった。

 朝食の後片付けが終わると、いよいよクライタウンが近づいてきた。

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