第15話 盗まれたフライパン
それは到着したクライタウンで町を用事を済ませて、引越しの家の列車に帰ってきた時に起こった。
「さあ、入りましょ」
アリスはオットーに扉を開かさせて、引っ越しの家に入るように言った。扉を開けて中に入ると、オットーは部屋の異変に気が付いた。
「あれ、おかしい」
「どうしたの?」
「椅子が倒れている」
「本当だ。でも出掛ける時に、誰か倒したんじゃないの?」
「一体、誰が?」
アリスが、オットーの不審がる顔を見つめた。
「ぼく知らないよ」
「私たちの中に、椅子を倒して外に出た人はいないよ」
「それって、どういう事?」
「誰かが、ここに忍び込んだってことでしょ」
慌てたアリスの顔が、真っ青になった。アリスは引っ越しの家の中を調べ始めた。
「オットーも何か取られていないか、自分の持ち物を確かめてみて。私は二階を調べてくる」
アリスにそう言われても、オットーにはミランダが用意してくれた着替えの服以外、持ち物らしい持ち物はなかった。あとは、いつも左耳に隠している探し物の箱しか思い付かない。これを取り出せるのは、オットーだけだから、まず盗まれることは考えられない。
「二階は大丈夫みたい。まだ私じゃあ、バートとミランダの私物は分からないけど。あの二人が貴重品を、ここへ残して出掛けるとは思えないし」
アリスが息切れしながら、二階の階段を下りてきた。さっき見せた青い顔よりは、少し落ち着いていた。
「オットー、一階はどう?」
「今のところ、荒らされた形跡は無いようだけど。ぼく一人じゃ、何が無くなっているか分からないよ」
「分かった。任せて、私が調べてみる」
アリスは手始めに、キッチンから確認してみた。でも、金目の物を狙う泥棒ならキッチンの物を盗むだろうか。それに反してキッチンから無くなった物は、すぐに分かった。
「魔法のフライパンが無くなっている。これじゃあ、朝食のパンケーキが焼けないじゃない」
アリスがキッチンの引き出しをあちこち開けて、弱ったような声を上げた。やっぱり魔法のフランパンは見つからなかった。
「でも、誰がフランパンなんか持って行くんだろう?」
オットーには、料理するしか役目のないフライパンを盗むなんて、不思議でならなかった。
「でも、この辺りじゃ。なかなか手に入りにくい物なの。フランパンに限ったことじゃないよ。この町で魔法の道具は置いてある所が少ないのよ」
「へー、そうなんだ」
オットーは腕組みして、難しい事を考えるように頭をかしげた。アリスは、念のために冷蔵庫の中も確認してみた。失敗した黒焦げのホットケーキが、一枚なくなっている。
「私の作ったホットケーキも無い」
「そんな物、誰が食べたの。真っ黒焦げだったのに」
オットーは目を大きくして驚いた。
「食べはしないけど、でも魔法に使うのよ」
アリスが冷蔵庫の扉をバタンと閉めた。冷たい空気がオットーをぞくぞくとさせた。
「それ、どんな魔法なの?」
オットーが尋ねた。
「逃げる時に、頭に載せるの。きっと私たちが戻ってきた時、まだ家の中にいたんだ。オットー。ちゃんと鍵がかかっているか、窓を調べてみて」
オットーは窓を一つ一つ確かめていった。引っ越しの家の一階には、窓が五つあった。その内の一つが鍵がかかってしなかった。
「この窓、鍵が開いている。ここから逃げたのかな」
アリスがオットーの側までやって来て、窓を開けて確かめた。
「どうして、頭に黒焦げのホットーケーキを載せるの?」
オットーは、先程からその事が気になっていた。
「ああ、そうしたら追跡できなくなるの」
オットーは想像しておかしくなった。そんな格好では、かえって逃げにくいだろうと思った。
「他に無くなった物はないね。やっぱり魔法のフライパンが目当てだったのかな」
アリスが一通り引っ越しの家の中を、探し回って言った。正確なところは、バートとミランダが帰ってきてからではないと分からない。
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