第8話 グラントーゼ駅
グラントーゼ駅には、多くの人であふれていた。この界隈では一番大きな町で、駅の周りには近代的な巨大な建物が多く立っていた。
「列車の時刻は、午後三時かっきりだ。時計を見よう」
バートはスーツの袖をめくって、頭をひねった。どうして魔法の腕時計は、こう複雑なんだ。普通の時計のように、一目で時間を読み取ることができない。もっとも指を鳴らせば、その時間がネオン灯のように、美しく浮き上がって見える仕掛けになっている。でも、そうしないのは、ここで指を鳴らすことは、荷物運びの男に荷物を預ける合図になっているからだ。
「この列車に乗るの?」
オットーの目の前には、銀色に光った巨大な列車が横たわっていた。
「オットー、足元に気を付けて」
オットーが列車に乗り込もうとした時、ミランダが注意した。
「すごい一等席だ。こんな高級な席、初めて!」
「特別席だからな。ここなら誰からも怪しまれないし、扱いも特別だ」
バートは、思わず顔をほころばせた。大人だって、こんな高級な席に座れたら、うれしくなってしまう。座席はふかふかだし、席幅も広い。窓だって大きいし、眺めも良かった。列車の外では、屈強な男たちが乗客の荷物運びに大忙しだった。出発の午後三時までには、あと五分もなかった。
そこに座っている乗客は、みんな身なりも良く立派そうに見えた。子供だって、それは同じだった。オットーと同じ年頃の子が、とても高級そうな服装に身を包んでいた。オットーはみすぼらしい自分の姿に、恥ずかしくなった。バートやミランダだって、この車両の中で一番質素な格好をしていた。一体何をしている人たちなんだろうと、オットーは辺りをキョロキョロ見回した。
「あまりキョロキョロしないでね。行儀が悪いでしょ」
ミランダが、落ち着きのないオットーに釘を刺した。
列車は、間もなく走り始めた。もう町が小さくなって見える。この列車はどこか面白い。渦巻きのように回って、町から離れていく。車窓を眺めながら、オットーは思った。一体どうしてだろう。
列車の旅は快適だった。飲み物や食べ物のサービスも良かった。オットーの関心ごとは、窓の景色だった。もうすっかりグラントーゼの町は見えなくなっていた。
「これからどこに向かうの?」
「ああ、まだ言ってなかったね。これから我々の町に向かう。でも、遠いからたどり着くまでに、何日もかかかる」
「そんなに遠くまで行くの?」
「不安かね?」
バートが微笑みながら、少し落ち着かないオットーの瞳をのぞき込んだ。
「ううん。前にもね、何日もかけて引っ越したことあるから大丈夫」
オットーは、無理して気丈に振る舞った。
「この列車でその町まで行くの?」
オットーは、こんな高級な座席の旅は初めてだったから、期待を込めて質問した。
「この列車で直接、私たちの町まではいけない。途中でどこかに宿を取るか。それとも、そうだ。面白い列車に乗って行こうか。それなら乗り換えもなしに、町まで行ける」
バートが、急に愉快そうに目を細めた。ライオンが笑ったようだった。
「面白い列車?」
オットーが関心を持ったように顔を明るくした。
「ふふ。それは乗ってからのお楽しみだ」
それからおおよそ三十分の後に停車した駅のプラットフォームで、オットーたちは一風変わった列車の前に立っていた。
「引っ越しの家に乗るの初めて」
オットーが目を輝かせて、歓声を上げた。列車には客車の代わりに、横に長細い小さな家が幾つも並んでいた。小さいといっても普通の客車よりは大きく、二階建てで屋根もちゃんとあった。
「これなら、普段の生活をしながらでも移動ができる。もっとも駅に着くまで外出はできないがね」
バートが誇らしげに、引っ越しの家の車両を見上げた。プラットフォームには、オットーたちと同じように、物珍しそうに引っ越しの家の列車を見上げる乗客が大勢見えた。
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