第2話 横取り屋一家
昼間はあんなにも銃声やら爆発音やらでうるさい街も、夜になるとすっかりと静かになる。そんな街の片隅で、今日は人の怒号が鳴り響いていた。そこには、誰かに追われている男がいた。
「ハァハァ!」
「あいつはどこ行った!」
「手分けして探せ!」
どたどたと足音を鳴らし、男達は路地を駆けていく。
遠のいていくのを見計らい、路地の影から別の男が出てくる。
「ハァ……ハァ……」
勝ち誇ったように、にやりと笑う男。
「いたいた。あんたがターゲットですわね」
「っ!?」
突然暗闇から声がかかり、咄嗟に拳銃を抜き付近を警戒した。そこからは、二つの人影が出てきた。
「女……か?」
「安心してください。私達は、依頼であなたを助けに来たんですよ」
「そういう事ですわ」
片方の女は、腕組をしてふんぞり返る。その姿を見て、もう片方の女が苦笑する。
「お前らが……?本当に大丈夫なのか?」
「あら、目の前に現れたのが女性なら、敵だって油断するかもしれないわよ?」
「んー……まぁ……」
男は顎に手を当てて考える。
「ほら!ぐだぐだ考えるのは後!早く逃げますわよ!」
「こちらです」
引き抜いた拳銃を仕舞い、二人の女に誘導されて、疑いながらも、付いていく事にする。
薄暗い路地を10分程走ったとこで、問いかける。
「おい、どこに向かってるんだ。何時になったら着くんだ」
「我慢して下さい。人目を避けて進んでいますから。時間が掛かっちゃうんですよ」
「ぐっ……」
男は、突然走るのを止めてしまう。
「おい、お前ら、本当に助けに来た奴らか?」
「……」
女が溜息をつく。
「はぁ……めんどくさ、さっさと片付けちゃいましょう」
女は、腰に手を回す。
「お姉様!……もー」
「やっぱり!」
「遅い」
男が拳銃を引き抜く前に、女性の方が先に抜き終わって構えており引き金を引き、男の腕に一発が入った。
「いっ……たくない?」
思っていた痛みではなく不思議に思い、腕を見ると、弾丸ではなく針が刺さっていた。
「なんだこれ!?ふざけてんのか!」
言いながら、一歩踏み出した時、目の前がぐらっと揺れる。
「なっ!?これ……は……」
言い終わる前に、男は地面に倒れてしまった。
「これはねぇ、うちのメイドが作った麻酔銃でね、針の先には即効性の麻酔がね――」
女が得意げに説明し始めるが
「お姉様、もう寝ちゃってますから」
「ん、そう」
お姉様と呼んでいる妹らしき女が姉であろう女の説明を制止してから、倒れた男に近付いて行く。
「気をつけなさいよ。これは、ドジなあの子が作った物なんだから」
手作りの麻酔銃を弄びながら、遅れてお姉様と呼ばれた女も男に近付いて行く。
「ふふふ。でも、使ってるって事は、ちゃんと信用してるって事なんでは無いですか?」
「べ、別にそういう訳じゃ」
妹は、姉をからかいながら、男の懐を探ってUSBメモリーを取り出す。
「それ?目的の物って」
「多分。そうですね」
「ふーん。じゃ、さっさと届けて、帰りましょうか」
「はい」
男をそのままにし、女達は、路地の闇へと消えていった。その後、目を覚ました男が追いかけていた男達に掴まってどうなったかは、言うまでも無い。
数日後。
街は何時もの喧噪を奏でており、何でも屋もまた、普段のように閑古鳥が鳴いていた。
「あー、暇だなー」
椅子にもたれかかり、愚痴を言っているのはシュヴァルだ。
「だんなー。その言葉、何度も聞いてるやつですぜ」
ソファーで寝そべりながら携帯ゲームをやっているのはハウンドである。
「くっそー。なんか行動を起こさないと駄目なんかなー」
「そんなこと言って、行動起こした事一度もねぇじゃねぇですかい」
「そらめんどくさいからな。何もせずに金が舞い込んでくりゃなー」
「そんなん無茶ですぜ」
こんなくだらない会話は、何でも屋においては日常会話の一つである。
「なんか面白い話は無いのか?情報通さんよー」
「んー……あ、そういやこんな話がありやすぜ」
「ん、なんだー?」
だらけながら、聞く気があるのか無いのか分からない体制でシュヴァルは尋ね、ハウンドもまた、ゲームを操作する手を止めずに話し始める。
「最近、変な連中が出没してるって噂でさ」
「変な連中?この街で変じゃない奴なんているか?」
「まぁ聞いてくだせぇ。なんでも、依頼をしてないのに勝手に依頼をこなされて、依頼品を置いてくだけ置いて、依頼料を一切要求しない謎の集団がいるとか」
「ん?どう言う事だそれ?」
何か興味を惹かれる話のように感じ、聞く体制に直るシュヴァル。
「いやね、おかしな話ですぜ。他の連中に依頼したのに、そいつらとは違う連中が依頼をこなして、ブツを届けてくれるっていう」
「なんだそれ。そいつらは何考えてるんだ」
「知りやせん。あと、ブツと一緒に小さい紙が貼っつけてあって、『横取り屋 見参 パンプキンシスターズ』って書かれてるって聞きやしたね」
「マジで意味が分からん。目的はなんだ」
「俺に聞かれやしても。まぁ、元々依頼を任された奴らの嫌がらせにはなりやすね。依頼をこなしたのはその横取り屋とか言う連中だから、料金は貰えねぇでしょうし」
「はー、そんな暇な連中がいるんだな」
椅子の背もたれに深くもたれかかる。
「てか、この街の連中のネーミングセンスって壊滅的じゃねぇですかい?」
「前にも言ったろ。ここのは、俺が考えたんじゃねぇ」
ゲーム画面にはCLEARの文字が出ており、ハウンドは、満足したのかゲーム機を仕舞う。
「まっ、気を付けた方がいいかもしれやせんね。俺達が受けた依頼も、横取りされちまうかもしれやせんし。依頼が来ること自体極小なのに」
「一言余計だ」
シュヴァルは立ち上がり、扉の方へと歩いて行く。
「どこ行くんですかい?」
「暇だから、外行ってなんかないか探す」
「おっ、面白そうなんで俺も行きやさー」
「遊びじゃねぇぞ」
二人は、言い合いをしながら部屋を出て行った。
外に出てはみたものの、何をどうするのか何処でどうするのか何も考えてないので、ただの散歩になってしまっている。
「何も考えずに出るの、止めた方がいいですぜ」
「お前にだけは言われたくねぇ」
「俺はちゃんと考えてやすよ」
「ほう。その考えとやらを聞かせてもらおうか」
瞳を輝かせ子供のようにはしゃいで見える感じでハウンドは言った。
「今日は新作のゲームの発売日なんですぜ!依頼を探すついでに買い物を済ます為に出てきやした!」
「お前に聞いた俺が馬鹿だったわ」
呆れて溜息が出てしまう。
「あーあ。仕事がそこら辺に転がってりゃ楽なんだけどなー」
「何変な事なこと言ってんですかい」
馬鹿な話をしながら歩いていた二人だが、ふと、シュヴァルは、一つの路地に目をやる。
「ん?何だあいつら」
「どれどれ?面白そうな事でもありやしたかい?」
シュヴァルが見つけたのは、二人の女だった。どちらも金髪で碧眼で十代後半、一人は腰辺りまで伸びたストレートヘア、少しきつそうな目つきをして腕を組んでいる。もう一人はゆるふわなウェーブがかった髪を腰よりも少し上で揃えており、手を前で揃えて組み微笑みを浮かべて相方の話を聞いている様は、とても穏やかそうな感じに見える。
「ここら辺じゃ見かけた事無い顔ですね。しかも、外見はいい線いってやす。なんでいだんな、一目ぼれですかい」
「ちげぇよ。あんなとこで何やってんのかと思ってな」
二人の女は何かを話し込んでいたのだが、一人がシュヴァル達に気付いて目が合い、もう一人も気付いて顔を向ける。
「……」
「……」
お互い、見つめ合って数秒が経った後
最初に目が合ったストレートヘアの女が、にこっ、と笑顔を向けた。
「な、なんだ?」
そして、懐から何かを取り出して、それを綺麗な投球フォームで、シュヴァル達に投げつけたのだった。
「おらぁ!」
「お、お姉様!?」
「あぁ!?」
咄嗟に、シュヴァルは腰のホルスターから拳銃を抜き、投げつけられた何かに向けて発砲する。
銃弾は、見事投げられた何かに当たり爆発した。その瞬間、黒い煙を辺りに充満させた。
「んだこれ!?」
口を覆うシュヴァル。シュヴァルの後ろに隠れ盾にしていたハウンドは冷静に分析をして
「これはあれだ、煙幕ってやつじゃねぇですかい」
「何俺の事盾にしてんだお前!」
流石の住民達も慌てている様子である。いくらこの街の銃住民でも、不意打ちなのだから仕方がない。
そんな中、何でも屋の二人は命を取られる危険が無いのが分かると、冷静に、煙が薄くなってて、かつ、女達を追いかける事も考えて、先ほど二人がいた路地へと走る。
煙からは逃れられ、視界も良好になったので、改めて、二人の姿を探すが何処にも居なかった。
「くそ!逃げやがったか!」
「でも、まだそんな遠くには行けてないでしょうぜ。どうしやす」
「追いかけるに決まってんだろ!行くぞ!」
「へーい」
何でも屋の二人は、路地の奥の方へと走っていった。
発煙弾を投げてすぐに路地を全速力で駆け抜け始めた女達。先ほどの二人が、言い争っているようだ。
「お姉様!なんであれ投げたんですか!」
「しょうがないじゃない!咄嗟にこうしよう!って思っちゃったんだから!」
「もー!もう少し考えて行動してください!」
「ごめんごめん」
言葉では誤っているが、顔は笑っておりあっけらかんとしている。そんな相方には慣れているのか、苦笑するだけでそれ以上は追及しなかった。
「そういえば、合流地点はどこだったかしら」
「えっと、それなら」
その時
「待てやコラー!!」
後ろから、男の怒声が飛んできた。走りながら振り向いた二人の後ろから、先ほどの男達が追いかけて来ていた。
「げっ!?なんで追ってきてますの!?」
「あんな事したからじゃないんですか」
「あんなんで!まー。なんて心が小さいんでしょ」
後ろの男達に聞こえるようにわざと大きめな声で言ってみる。
「あれが爆弾だったら死んでたんだぞ!」
「死んでいないんだからよろしいのではなくて」
「その態度が気に食わねぇ!取り敢えず、警察に突き出してやるからな!」
そう言いながら、抜いたまま持っていた拳銃で分かれ道の左の方に数発発砲する。
「いっ!?」
女達は、左へ曲がろうとしていたのだが、仕方なく右へ曲がる。同じような事を曲がる方向を変えながら数回繰り返してる内に、お姉様と呼んでいた女が、疑問を口に出そうとする。
「お姉様……これ……もしかしたら」
「えっ!?何!?何か思いついたの!?」
今度の分かれ道を左に曲がり少し進むと、広い場所に出た。
「えっ、何ここ」
いきなり現れた空間に戸惑いながらも、足は止めないようにするのだが
「んっ!?何よこれ!」
進もうと思った先には、道が無かった。それどころか、右を見ても左を見ても道は無い。
「ハァ……ハァ……やっと追いついたぞ……」
少し遅れて、何でも屋の二人も、同じ空間に到着した。
「お前らがどこに住んでんのか知らねぇけど、ここら辺の事を知らなかったみたいで安心したぜ」
「いくつかあるんですぜ、ここら辺には、こういう行き止まりが。その一つに誘導したんでさぁ」
息を整えつつ、状況説明をする二人。
「やっぱり……」
ぼそりと呟くゆるふわヘアーの女。
「はぁ!?作った奴はアホなんですの!」
憤慨し、感情を露にするストレートヘアの女。
「知るか!観念しろ!」
「ぐぐぐ……」
拳銃を構えながら、じりじりと、女達ににじり寄る。
「お姉様……」
「むむむ……」
その時、この空間に、重い銃声が一発鳴り響いた。
4人は、一つしかない出入り口の方を見ると、空に銃口を向けている男が立っていた。歳は三十半ばくらいだろうか、黒い髪に黒い瞳、いかつく、咥え煙草をしていて、見た目だけならその筋のやばい人に見える。
「げっ!?」
「ありゃ、とっつぁんじゃねぇですかい」
とっつぁんと呼ばれた男は、とてもイラついている様子である。
「お前ら、事件起こすんなら俺の見てないとこでやれや。人の目の前でひと悶着起こしやがって。こちとら非番だぞ」
「あぁ、だから私服なんですね」
「いや知らねぇよ。何時もは全く仕事しようとしないのに、なんで今回は律儀に仕事しようとしてんだよ」
「うるせぇぞ。取り敢えず、お前ら全員死刑な」
「罪が重すぎる!」
言い争いをしている男達を、きょとんとした顔つきで見る女達。
「な、何なのかしら一体」
「非番とか言ってましたし、あの人達は警官とかなんじゃないでしょうか」
男達にばれないように、小声で会話をする。
「それよりもお姉様、今の内に助けを」
「ふふん、ぬかりないわよ」
ストレートヘアーの女は、いつの間にか、右手に携帯を持っており、男達の目を盗んで何かをしたようである。
「流石ですね。お姉様」
「当然でしょ」
女達の密談が終わった時、男達もまた、言い争いが終わりかけていた。
「だから、騒ぎを起こしたのは俺達じゃなくてあいつらなんだよ」
「喧嘩売られたから相手してやっただけでさ」
「分かった分かった。それでいいから。で、あいつらは誰なんだ」
「あー……そういや聞いて無かったわ」
「追いかけるのに夢中でしたしね」
男達は、女達の方へ顔を向ける。
「おい。お前らは一体なにもんなんだ?」
ストレートヘアの女が一歩前に出て、髪をかぎあげながら
「そんなに知りたいなら教えてあげてもよくってよ」
と、とても偉そうに言う。
「いや、別に。これからむしょに入る奴の名前なんか興味ねぇけど」
「なんなんですのこいつ……」
呆れ果てて名乗るのが馬鹿馬鹿しくなるも、それはそれで癪に障ったので、女は名乗ることにする。
「私の名はサリア・パンプキン。そして、こっちの可愛い娘が、私の最愛の妹で」
「マリア・パンプキンです。宜しくお願いします」
お辞儀をしつつ丁寧な口調で自己紹介をされ、その意外さに驚きを隠せずに、シュヴァルは、率直な疑問を投げてしまった。
「お前ら、ほんとに姉妹か?」
「何故、私の方を見てその言葉を投げつけるのかしら?」
にこっ、と、笑顔を向けているが目が笑っていない。
「誘拐して洗脳したなら、正直に白状した方がいいぞ?」
「れっきとした、血の繋がりのある姉妹ですわ!」
怒りをむき出しにして睨みつける。
「てか、パンプキン……どっかで聞いたな」
うーんと、唸り考えるシュヴァルに、ハウンドがため息交じりに思い出させようとする。
「さっき話したじゃねぇですかい。最近、意味分からん事してる連中の名前が、パンプキンだったはずですぜ」
「あぁ。あの横取り屋とか言う意味分からん連中か」
「意味分からんってなんですの!」
「やってる事が意味分んねぇんだよ。何が目的なんだ」
再び髪をかき上げ、説明を始めた。
「よく聞きなさい。依頼を横取りすれば、元々受けていた奴らの信頼を落とせる。横取りしようとしたけど出来なかった人達は実力があるとして注目される。こうして、実力がある者だけが生き残る。これが、横取り屋の存在理由ですわ」
と、胸を張って堂々と言い切ったサリアの説明に、マリアは、すかさず付け足した。
「って、もっともらしい事言ってますけど、実態は、お姉様の暇つぶしです」
「おい!はた迷惑過ぎるぞ!」
「ちょっと!余計なこと言わないの!」
「ですけど、そんな、自分に正直に生きるお姉様の事が好きなので、私は良いと思いますし一生付いていきますよ」
姉の両手を握って真っ直ぐな瞳を向けて言った。
「そ、そう!そうよね!当然だわ!」
サリアは高笑いを、マリアは優しく笑う。
「だんな、あの姉妹駄目だ。手遅れですぜ」
「ああ。どっちもあほだったな」
絶句する何でも屋。
「いい加減、飽きたからさっさと行くぞ」
この状況をずっとおとなしく見ていたとっつぁんは、姉妹を連れて行こうとして、近づこうとする。その時、プロペラ音がしだし、それは次第に大きくなっていく。
「ん?何だ?」
音を立てて近づいてきたのは、一台のヘリコプターだった。
「おい!この状況、最近体験した事あるぞ!」
「やっと来たわね」
「お嬢様方ー、大丈夫ですかー」
ひょこっと顔を出し呼びかけてきたのは、メイド服を着た女だった。眠そうな二重に肩辺りで切り揃えた黒髪、すらっとした体型をしており、雰囲気はとても大人びて見える。
「アメ―!遅いじゃない!」
「お前らの仲間か!」
「あんた達が馬鹿やってる間に呼んどいたのよ!」
胸を逸らすサリア。
「くだらねぇ。撃ち落としゃいいだろうが」
とっつぁんは、なんの躊躇もなく発砲し始めるが、空しく金属音が鳴り響くだけだった。
「ふっふっふー、このP-ちゃんの装甲を抜きたいなら、軍艦の主砲でも持ってこないと効かないよーだ」
ヘリの操縦席に座っていた女が、誇らしげにどや顔で言った。ブラウンの髪をポニーテールにしており、華奢な体つきで、歳は二十代半ばだろうか。因みに、こちらもメイド服を着ている。
「戦艦の主砲って、言い過ぎよ、エミリー」
「理想だもーん。アメリアちゃんには分からないよ。そういうロマンってやつはさー」
操縦席にいるエミリーと言われた女は、頬をぷくーと膨らませる。
「はいはい。ヘリのロマンなんて分かりませんよ」
黒髪の女、アメリアは、エミリーの扱いを慣れているかのように軽くあしらい、ヘリの搭乗口付近に、丸い何かをいっぱいに詰めた大きな箱を引きずりながら持ってきて置いておき、別に用意した手榴弾をいくつか手にして、また顔を出し、下にいるシュヴァル達めがけて、地面にたたきつけるようにして一つ投げた。
「ん?何やってんだ?」
遠いので目を凝らしよく見て、それが何なのかを認識するシュヴァル達。
「いっ!?」
刹那、男達は散り散りになって逃げる。少し経ってから、手榴弾が降ってきて地面に当たり爆発した。
「なんつうもん投げつけてきやがんだあのメイド!」
「やべぇやべぇ、イカれてる女しかいねぇや」
「クソが!」
タイミングをずらして二つ、三つと手榴弾を投げていき、男達はだんだんと姉妹から遠ざかっていく。
それを見て、アメリアは、置いておいた箱をヘリの搭乗口に持っていき、思いっきり蹴り飛ばして落とした。
「今度はなんだ!?」
箱は、元々もろく作ってあったのか、落下中にばらばらになった。支えが無くなった丸い物体は、広がって落ちていく。地面に着き、一度跳ねた後、一斉に爆発して、白い煙が辺りに広がっていく。
「くそっ、また煙幕か!?」
煙は、徐々に広がっていき、辺り一面を真っ白に染め上げた。
「いやー、全然見えやせんねぇ」
十分に広がったのを確認して、長めの縄はしごを下ろし、サリアに電話をかける。
「ん?こんな時に誰?もしもーし」
「あっ、サリアお嬢様、はしごを下ろしましたので、上ってきてください」
「えっ、いや、何も見えないんだけど!?」
「……頑張ってください」
「ちょっと!今、明らかにおかしい間がありましたわよね!?何も考えて無かったわね!」
「お嬢様の運に賭けます」
その一言を言い終えるのと同時に電話を切る。
「えっ!?ちょっと!?・・・切りやがった!あのメイドはなんなんですの!」
スマホの電源を切り、乱暴にしまうと、妹に電話の事を伝える。
「マリア、アメリアがはしご下ろしたとか言ってたから探すわよ。こんな状況じゃ無理な話だけど」
「これの事じゃないですか」
「えっ?」
振り向いた先では、マリアがすでにはしごを掴んでいた。
「……」
この状況を理解するのに数秒の時間が流れ
「流石、私の妹ですわ!」
ウィンクをして、ぐっ、と親指を立てながら一言。そして、もう深く考えるのはよそうと思ったのだった。
姉妹は、お互いにはしごをしっかりと掴んだのを確認し、アメリアに連絡を取る。
「掴んだわ。上げて頂戴」
「了解致しました。エミリー、上げてちょうだい」
「りょうかーい」
ヘリは徐々に高度を上げていき、逃げれるのを確信したサリアは高らかに勝利宣言をした。
「おーほっほっほっほっ!それでは、どこの馬の骨とも分からないぼんくらの皆さん!ごきげんよう!」
「あぁ!?」
煙で辺りが全く見えない状況で、頭の上から声が掛かる。そして、その一言を最後に、ヘリの音は遠ざかっていった。
「くそ、逃げられたのか?」
どういう状況なのかよく分からないので、いまいち悔しさも出てこない。
「だんな」
「うわぁ!?びっくりした!?」
煙の中から、急にハウンドが出てきてとても驚く。そんなシュヴァルを気にも留めないで提案をした。
「俺達も、この煙を利用して逃げやしょうぜ。とっつぁんに見付かったらめんどいですし。出口までのルートも把握しといたんで、すぐに行けやすぜ」
「お、おう・・・そうだな。そうするか」
二人は、深くうなずき、全速力でこの場から去る。
「とっつぁん!俺達も帰るわ!じゃあな!」
「そんじゃまたー」
「ふざけんなよてめぇら!」
怒号をぶつけられても止まる訳はなく、二人の足音は遠ざかっていき消えていった。
「くっそガキ共がああああ!!!」
一人残されたとっつぁんの怒声が、虚しく響いた。
「あーあ。今日はさんざんだったな」
無事に、自宅に帰宅した何でも屋の二人。
「逃げるのに必死でゲーム買えやせんでしたぜ」
「知らねぇよ。今から行けゃいいだろ」
「そんな気力はありやせん」
そう言いながらも、携帯ゲーム機の電源を入れるハウンド。
「言葉と行動がむちゃくちゃなんだが」
「それはそれ、これはこれでさ」
しばしの間、沈黙が流れる。
「だんな、俺達、あと数日の命ですぜ」
「あぁ・・・そうだな・・・」
とっつぁんの様子を思い返し、自分達の寿命が一気に短くなり、二人は今後どうするのか、とっつぁんをどう説得しようか考えようとしたが、何を言っても無理そうだと結論付けて、残りの寿命を楽しもうと決めたのだった。
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