第4話 あなたは誰?

 週明けの講義は憂鬱だった。

『好きだったよ』

 ふとした瞬間に、秋月君の言葉を思い出した。

 好きだよ、ではなく、好きだったよ。

 また私はフラれたのかと悲しんでいると、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。授業を受けていた生徒たちが次々と教室を去っていく。

「あーきーつーき!昼飯食べに行こうぜ」

 後ろからの声にびくりとした。

「パス。さっきスタバの新作飲んだからいいわ」

すいが行かないのなら、私も行かなーい。あんたひとりで行ってきなさい」

 後ろを振り向くと、通りを隔てた席に秋月君がいた。彼の隣には、オフショルを着た派手な見た目の女が立っていた。

「秋月君?」

 私の姿を見つけた彼は、さっと私から顔を背けた。

すい、どうしたの?知り合いでもいた?」

「悪い。ちょっと席外すわ」

 秋月君はイスから立ち上がると、私の席に近づいてきた。

「中庭テラスで待ってる」

 彼はそう言うと、スタスタと教室を出て行った。


◆◇◆◇◆◇◆


 中庭テラスに着くと、秋月君が木陰の下にあるベンチに座っていた。

「まさか同じ大学だったなんて驚いた。世間は狭いな」

「あなたは一体誰?教室ですいって呼ばれていたけど、あなたはかおる君じゃないの?」

 秋月君は私の顔をじっと見た後、はあとため息を零した。

「あんたの言う通り、俺は馨じゃない。馨は、俺の双子の兄」

 双子と聞いて納得してしまった。でも、それなら、なぜ目の前にいる彼が私のことを知っているのだろう。ああ、そうか。数日前に私が会ったのは、馨君じゃなくて目の前にいる弟の方だったのか。

「馨君も、この大学に通っているの?」

「いや」

「じゃあ、他の大学に通っているの?」

「それも違う」

「お願い。馨君に会わせて」

 秋月弟はベンチの背もたれに身を預けると、頭上にある木に目線を移した。

「馨に会ってどうするつもり?」

「好きですって、もう一度伝える。フラれてもいいから、もう一度彼に会いたいの」

「好きだから会いたい、か。いいよ、分かった。馨に会わせてあげる」

 集合場所と時間を決めると、秋月弟は私の前から去っていった。去り際に、「念のため、ハンカチを持って行くように」と言われたので、「余計なお世話です」と言い返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る