365 未来へ引き継ぐ 終

「ん……」


 唐突に意識が戻る。感覚が目覚めていく。あの時はかすかにパレードの音楽が響いていた。でも今は、鳥たちのさえずりが聞こえてくるばかりだ。

 誰かが手をなでていた。そのやさしいぬくもりに誘われてまぶたを開ける。重ね合った手の向こうに、微笑むディノがいた。まっすぐに注がれる若葉の瞳を見て、ジェーンは今すべての記憶をようやく思い出したのだと悟った。


「あなたの夢を見ていました、ディノ」


 ディノはくすぐったそうに小さく笑う。


「どんな夢だったんだ」

「懸命に話しかけてくれるあなたと、一向に耳を傾けないひどい女の夢です」


 ディノはまるく目を見開いた。その顔は夢に出てきた男の子によく似てあどけなかった。大雨の日、寒さから守ってあげられなかった手を両手に包み込んで、ジェーンは額をつける。


「話したいことがあります。たくさんっ、たくさん……!」


 ディノはジェーンの肩と腰を抱き寄せた。その力強い腕に、ジェーンも抗わず身を預ける。肩口でディノの声が切なく鼓膜を揺らした。


「俺たちはすべてのしがらみを抜けた。なんでも話せる。新しい世界で、無邪気なふりをして、心のままに」


 隙間なくディノを抱き締め返しながら、ジェーンは何度もうなずく。東の果てから昇ってきた新しい太陽が、まっさらな荒野とふたりを照らし出した。





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