361 未来へ引き継ぐ①

 そう思った矢先に、ロンは拒絶するように目元を覆って天を仰いだ。


「人の世が終わることはない。源樹イヴが御座おわす限り、大地の国は何度でもよみがえる! 滅ぶことはないっ! あんな爆弾ひとつで……!」


 這いずるようにして立ち上がり、ロンはまっすぐこちらへ向かってきた。強張るジェーンの前にディノが体を割り込ませる。

 しかしロンは足をもつれさせ、光輪に手をついた。それでも彼の執念は体を突き動かし、ディノの足を掴む。震える腕で体を起こし、しわがれた手をジェーンに伸ばした。


「ジュリー様……っ、ロジャー様……!」

「ロナウド、もうやめろ」

「希望のお子を、お産みください。あなた様方の勝手で、何代も繋ぎ守ってきた種を絶やすなど、無責任だとは思いませんか……!?」

「やめてくれっ、頼むから……!」


 震える声でディノは手を上げた。ジェーンはとっさに彼の腰に抱きついて止める。


「なーんで理解できないの?」

「受け入れられないのです。人の国の再興。それがロナウドにとって信じられる唯一の真実なのです。彼の中では、大地の民は世界のどこかで今も生きているんでしょう」


 アダムとイヴの言葉に、ジェーンは唇を噛む。

 信じているものが真実になる。少し前のジェーンもそうだった。シェアハウスでいっしょに暮らすダグラスが、かつての恋人だというのはジェーンにとって事実だった。

 だからディノの話を信じられず、真実をウソだと拒んだ。

 ロンはどうしたら真実を信じてくれる? 世界中を歩き回って、生存者はいないと見せる?


「……イヴ。ロナウドの記憶を封じてくれ」


 こぼれ落ちてきた言葉に、ジェーンはディノを凝視した。彼は振り向かない。感情の見えない目で、ただロンを見下ろしている。


「ディノ! なぜそんなことを言い出すんですか!?」

「これしかないからだ。ここまでやってもダメなら、忘れさせるしかない」

「そんなことありません! これから時間をかけてわかってもらえばいいじゃないですか」

「そうしてる間にまたあんたが襲われたらどうする!?」


 強く肩を掴まれた痛みが、ジェーンの言葉を奪ったわけではなかった。眼前に迫ったディノの目が、頬が、口が、悲痛に染まって今にも泣き出しそうだったからだ。

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