357 Creation magic garden①

 枝葉が茂る中腹あたりで、煌々と輝く光輪に辿り着いた。息はすっかり上がっていたが、ジェーンは光に吸い寄せられるように動く。

 光輪はディノと同じ御印の形をしていた。線と線の間は穴かと背筋が震えたが、先を行くディノは平然と歩いていく。見えない床があるらしかった。

 ディノに手を引かれるまま、ジェーンは輪の縁へと進む。


「これが世界の、本当の姿……」


 そこから見えた景色にジェーンは息を呑んだ。

 ジェーンが暮らす町の向こうには、ビル群や煙をくゆらせる塔が建ち並んでいた。さらにその奥にそびえる山並みが見える。

 黒い山脈はどこまでもずっとつづき、街を抱きかかえていた。おそらくバーベキュー場があった湖、その遥か向こうの田園地方まで囲っている。

 クレーターだ。大空の国が放った爆撃機によってこじ開けられた大穴。ジェーンたちが住んでいる町は、その中の箱庭に過ぎない。

 そして箱庭の外には、なにもなかった。

 荒野だけがつづいていた。荒れた大地を、太陽の残り火がわずかに照らしている。しかしそれももうみるみると消えていき、荒野には真の闇が降りる。

 箱庭だけが夢幻とウソのように光っていた。


「イヴとアダム様が、木族きぞく――いや、彼らの意識を調整している。だから誰も疑問にすら思わない。山の向こうになにがあるのか、なんて……」


 ためらいがちに言ったディノの顔を、ジェーンは見上げた。吹き渡る風が黒髪を揺らし、複雑な色を灯すディノの目元をなでていた。

 ディノもロンも、そして病院を利用したジェーンのことも、そうして隠されてきたのだと知る。


「……ごめんな、ジェーン」


 ふと、こぼれた謝罪の意味を、ジェーンは目で問い合かけた。


「最初からロナウドをここに連れてきて、イヴと三人で話せばこんなことにはならなかったかもしれない。でも、ダグラスたちの意識統制を、知っていたから……」

「ディノは、家族で解決したかったんですね。神ではなく、息子の言葉を聞いて欲しかった。あなたの思いやりはなにも悪くありませんよ」

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