358 Creation magic garden②

 突然、小さく噴き出したかと思うと、ディノはくしゅりと顔を歪め、大きな口を開けて笑った。少年のようにあどけない声で無防備に頬をほころばせて、くすぐったそうに背中を震わせている。

 ジェーンはしばし固まった。こんなに笑うディノを見るのは、クレープ屋以来だ。何度見ても瞬きも呼吸も奪われて、魅せられる。

 何度も? 自分の思考にジェーンは首をかしげた。


「ジェーンは本当にやさしくて、やわらかくて、きれいだな。俺の想像してた通りだ」

「想像していた……?」


 うなずいて、ディノは振り返る。ジェーンもその視線を追って源樹へ顔を向けた。するとちょうど、光の階段を上ってきたロンの姿が飛び込んでくる。

 ロンは肩で大きく息をしながら、手に持ったものを構えた。黒い小銃だ。


「ロジャー様、ジュリー様を撃ち殺されたくなければ私の元に来なさい」

「血迷ったのですかロナウド! ディノはあなたの大事な息子ですよ!?」


 親バカとも自負していた男の言葉が信じられず、目を剥く。ジェーンはディノの前に立ち、両手を広げてかばった。


「もちろん四肢を引き裂かれる思いですよ。しかし必要なのは杯だ! 種は私でも代用が利く! ロジャー様あなたは、人類の聖母となるために生き残ったのです! 今こそ使命を果たされる時だ!」

「バッカじゃないのー?」


 そこへ上空から青い光が飛来した。それは翼を広げ、爪を剥いてロンの頭上をかすめていく。怯んだ相手を見て「ふん」と笑い、神鳥アダムは弧を描いてジェーンの肩にとまった。


「ロジャーを爆発から守ったのは、僕がロジャーを大好きだから。それ以外に理由なんかあるわけないでしょ。ちょっとイヴ、ロナウドどうにかしてよ。彼を助けたのはきみでしょお?」

「わたくしも、ジュリーのそばに彼がたまたまいたから助けただけですが」


 アダムに応える声は樹上から降り注いだ。目を向けると、枝から一匹の獣が飛び下りてくる。まるで木の葉のようにふわりと着地したのは狼だった。くすみがかった桃色の体躯に、葉っぱの耳としっぽを持っている。


「イ、イヴさま……」


 目の前に降臨した源樹の化身に、ロンはだらりと腕を下げた。

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