356 源樹イヴへ!③

「悪い。でも、俺の本音は言ってしまったんだ。もう自分にウソつかなくていいだろ」

「え。本音……」


 ディノは弾かれるように顔を起こし、ムッと眉をひそめた。


「まさか聞いてなかったのか」


 米神に垂れる光輪の装飾を軽く引っ張られる。そうだ、ディノの頭に御印が現れた時だ。


――俺は最愛の人のために、あんたと親子の絆を断ち切る!


 ディノの目が、父を想う苦悩から決意の光へと変わる様を、ジェーンはまっすぐに目撃していた。


「あんたが幸せなら、ダグラスだろうと誰だろうと恋人になっても構わない。そう思ってた。でも実際、あんたがロンに」


 そこでディノは舌打ちして、唐突にパーカーを脱ぎはじめる。わけがわからずあたふたするジェーンに、パーカーを投げて寄越した。


「想像してた十倍ムカつく。早くそれ着ろ。俺に構うなよ」


 インナーニット一枚の姿は寒そうに見えたが、ディノは背中を向けて有無を言わせない。着ぐるみをかぶるため薄着でいたジェーンは、正直ありがたかった。

 羽織ったパーカーがとても暖かく感じる。

 いつからだろうと、ふと思う。

 私はいつから、ディノのやさしいウソに守られていた?


「ディノ、私はシェアハウスの家族としてあなたを愛しています」

「うれしい。けど、それはやっぱり俺じゃあんたの王子様にはなれないってことか……?」

「あなたはずっとウソで自分を隠してました。だからこれからは本当のディノを私に見せて欲しいんです。それに私の“ロジャー”の部分も、あなたに見てもらいたいです」

「そうだな。俺も知りたい。ジェーンも、ロジャーも」

「ディノ。これからもいっしょにいましょう。ケンカをしても、すれ違っても、いっしょに」

「うん。ジェーンがいてくれれば俺は、寂しくない」


 手を差し伸べられて、そっとぬくもりを重ねる。お互いを暖め合うように指を絡めて、握り締める。

 ジェーンとディノが歩きはじめると、後方の階段は元の段差に戻った。ロンの姿は巨大な幹に阻まれて見えない。

 上るごとに風が強さを増した。

 その風に追い立てられるように、夕空は闇夜に侵食され西の外れが最後の輝きを放つのみ。一日が終わる。赤く焼けた空と黒く塗り潰された大地は、あの日の故郷に似ていると見てもいないのに感じた。

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