340 ハッピー・ハロウィーン♪②

「きゃ……っ!?」


 血走った目に黒い影が飛び込んできたと思ったら、ぶつかってしまった。ジェーンは倒れて芝に尻もちをつく。

 慌てて顔を上げると、そこにはカボチャのかぶりものをしたマント姿の人物が立っていた。


「ごめん。だいじょうぶ?」


 カボチャから聞こえたのは若い男性の声だ。それにどこかで聞き覚えがある。彼は前かがみになって、そっと手を差し伸べてきた。

 ジェーンは思わずあとずさった。


「怖がらないで、ジェーン」

「えっ。どうして私の名前を」


 カボチャ男がますます不気味に映り、ジェーンは冷ややかに目の前の手をにらみつけた。

 その時、信じられないものを目にする。男の手の甲、親指のつけ根近くに赤いアザが浮かんでいた。しかも、恋人のものと形も大きさもよく似ている。


「ダ、グ……?」


 そんなはずはない。そう思いながらジェーンはステージを振り返った。するとまっすぐこちらに向かってくる男に気づく。ロンだ。ダグラスの血に動揺した姿を見られている。

 逃げ出そうとした時、黒いマントがロンからジェーンを隠した。


「大地の聖騎士ロナウドか。やっと会えたのに邪魔しやがって」


 すねた声をこぼして、カボチャ男はもう一度ジェーンに手を伸ばした。


「扉を開けて欲しいんだ、きみに。本当のきみと俺を取り戻すために」

「扉?」

「そう。俺になにを言われても扉を開けて。一歩を踏み出して」

「わ、わけがわかりません! あなただってどうせ私のダグではないんでしょう!?」


 もう期待を抱くことに疲れた。今はなにも信じる気になれない。赤いアザのある手をひっぱたき、ジェーンは駆け出そうとした。

 しかし手を掴まれて強く引かれる。倒れ込んだ先はカボチャ男の胸だった。閉じ込めるようにきつく抱き締められ、ジェーンはハッと息を呑む。

 男の体はひどく冷たかった。こんな低い体温で震えもせず、平然としていられる人間などいない。

 そろそろと見上げると、落ちてきたなにかがジェーンの唇を弾く。かぶりものの隙間から伝い落ちる雫が、ふるりと光っていた。


「……あの時外に出なければ、今もきみといっしょにいられたかもしれないもんな。ごめん……本当にごめんなっ。俺の女王様……!」

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