339 ハッピー・ハロウィーン♪①




 * * *



 荒々しい息遣いがどこまでも追いかけてくる。

 それが自分のものだと気づいたとたん息苦しくなって、ジェーンは鳥のかぶりものを外した。動きにくい着ぐるみも脱ぎ捨てる。その時、冷たいものがうなじを這っていった。


「ひ……っ!」


 びくりと振り返ったが、ただ秋風が吹き渡ってくるばかりだった。ステージ前の原っぱには青白い顔の看護婦、肌がただれた警官、ボロボロのドレスを引きずる花嫁がさ迷う。

 彼らの服にこびりついた琥珀色のシミが、ダグラスの傷口から流れ出てきたものと重なった。


「なんで……なんで私と違うの。どうしてみんな平然と……っ」

「よおっ、ジェーン。お疲れさん」


 そこへ声をかけてきたのは先輩のラルフだった。他にもノーマンと私服姿のニコライ、レイジもいる。


「最後までよくがんばったな。お疲れさま」


 ニコライが誇らしげな笑みを浮かべる。


「お前見てたら、俺もショーに関わりたくなったぜ」


 少し照れくさそうにレイジが顔をほころばせる。


「でもなんでアダムの着ぐるみを着ていたんですか?」

「それが仮装なんだろ。なあジェーン! ショーの大成功も祝ってパーティーでパアーッとやろうぜ!」


 首をかしげるノーマンの背中を叩いて、ラルフは豪快に笑った。

 衝突や不信や上司の理不尽を乗り越え、ひとつになれた仕事の仲間たち。彼らからジェーンは一歩、また一歩と離れた。覚束ない足を突き動かすものは恐怖だった。


「みんなも、違うんですか……わたしと」


 似た姿形、同じ言葉、同じぬくもりを持っている。けれどひと皮剥いたそこには、琥珀色の血が流れていた。ジェーンが知る赤色ではない。

 赤い血が人間だとしたら、彼らは一体何者なの?


「ジェーン、どうした? なんだか顔色が……」


 ニコライの手が伸びてきて、ジェーンは衝動のままに走り出した。牙を剥き出す人狼、斧が頭に刺さった大男、全身を布に巻かれた骸たちが、次々と集まりはじめていた。

 必死に逃げるジェーンを視線が追いかけてくる。どこへ目を向けても、彼らの服には琥珀色の血が滴っていた。ジェーンと同じ赤はいない。誰も彼もが人間ではない。

 それとも私がおかしいの……?

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