338 その「いつか」はきっと近い③
「ショーが終わるまであと約五分っスね。ジェーンちゃんは俺と入れ替わってアダム役をやってるんスよ。んで、フリーになった俺があんたを助ける作戦っス! ダンス練習がきつかったんスけど、クリスが完コピしてたからそれでなんとか覚えてもらったんスよね」
そう言いながらルークはにやりと笑う。いつだって隙のないロンの鼻を明かしてやったと思うと気分がいい。練習も本番も、ジェーンのダンスを見られなかったことは心残りだが。
「ちっ。逃げろって言ったのに……」
「ん? なんか言ったっスか?」
「ルーク。俺が魔法で壁をやわらかくするから、お前は棒とかでこじ開けてくれ」
「それならバールが……え、マホウ? マホウって、え? え? え?」
うまく言葉が飲み込めなくて、ルークは壁と隙間を無闇に見比べる。すると足元がほのかに光り出した。言葉を失い、その光景に目が吸い寄せられる。まさかと思いながらも、おそるおそる隙間に指を引っかけて、力を込めた。
曲がる。さっきまで殴りつけてもびくともしなかったのに。
「うそ……。ウソウソウソ! ウソっしょねえディノちょ、これえ! あんた創造魔法士だったんスか!?」
「うる、さ……。はあっ、はなしかけんな……!」
壁越しに届いたディノの息遣いはなぜか苦しそうだった。もしかして魔法発動に負担がかかるから、秘密にして園芸部にいたのだろうか。
ルークはグッと唇を引き結び、黙して隙間にバールを差し込んだ。
確かにディノは自分のことを語らない。四年近くルームシェアをしているのに、好きなことも嫌いなことも多くは知らなかった。
「無理に話さなくてもいいっスよ。でもいつか、こいつらだったらいいかなって思わせるまで、ダグ先輩とつきまとうっスから!」
そう宣言したとたん、壁から盛大な咳が飛び出してきた。「失礼っスね」とわざと大げさにけらけら笑う。ディノのことを多くは知らないけれど、もちろんわかったこともある。
ジェーンちゃんが好みのタイプで、案外誘いは断らなくて、そんで結構寂しがり屋だ。
「むせるほどうれしいんスか?」
「ばか言え」
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