337 その「いつか」はきっと近い②

 次の瞬間、ひしゃげた音が弾ける。周りの扉枠が歪み、施錠部品デットボルトが剥き出しになった。


「ディノ!」


 ルークはすぐに中へ踏み込む。間取りは思っていたよりも狭く、廊下とトイレや浴室になりそうな小部屋があるだけだった。


「こんなもんなのか? いや、確かバルコニーがあったはず……」


 しかし正面側は壁に閉ざされている。バルコニーは見せかけだけ、というのはよくあることだ。大地の国を象った街並みの家もそうだった。それにここはまだ改創中。間取りが妙でもおかしくはない。


「ディノ! ディノ! いるなら返事するっスよ!」


 しかしルークは諦めきれなくて、バールで壁を叩き声を張り上げた。

 ロンは創造魔法士だ。もしこの壁の中に空間を創り、ディノを隠されたらルークでは手も足も出ない。

 もうなりふり構わずジェーンを引っ張ってくるべきか? 選択を迫られ迷い、ルークはうつむく。


「え……っ」


 すると視界にとんでもないものが飛び込んできた。人の指だ。壁から生えている。

 ルークは自分の目を疑いながらもしゃがみ込み、指に触れた。薄闇でよくわからないが男性のものに見える。肌の色は自分より濃い。間違いない、ディノだ。


「ディノ! そこにいるんスね!? 倒れてるんスか!? ディノ!」


 ディノの指をぎゅっと握り、軽く引いたり揺らしたりしながら必死に呼びかける。


「……ううっ、なんだ……ルーク?」

「ディノオオオッ! よかった……! 怪我とか気分とかだいじょうぶっスか!?」


 弱々しくかすれていたが、慣れ親しんだルームメイトの声が返ってきてルークは思わず叫んだ。目に熱いものがにじんでくる。なんだかとても久しぶりにディノの声を聞いた気がした。


「ああ、まあ……なんとかな。ルークはなんでここにいる」

「なんでじゃないでしょうが! あんたが帰ってこないからっスよ! ルームメイトのみんなで捜したんス。特にジェーンちゃんなんかひとりでロン園長から情報聞き出したりして、大変だったん――」

「ジェーン! あいつはまだここにいるのか! ショーはどうなった!?」


 やけに切羽詰まった声を出すディノに圧されつつ、ルークは腕時計を見た。

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