336 その「いつか」はきっと近い①

 まるで驚き戦いたかのように。

 驚いた? 怖い? ああ、そうか。きみは悪い子だね。

 ロンが立ち上がると、着ぐるみはびくりと震えた。そして部員たちを押しのけ慌てて外へ出ていく。


「ロン園長! すみません、救急箱がなかなか見つからなくて……! 救護室にはもう知らせに行かせてあります」

「わかった。ここはジャスパー部長に任せるよ。僕は早急に片づけなくちゃいけない仕事ができた。ごめんね」


 救急箱を手に駆け寄ってきたジャスパーと入れ違うように、ロンは歩き出す。ルークに扮してまんまとロンの目をあざむいた人物を追い、その歩調はどんどん速く大きく大地を踏みつけた。




 * * *



「ディーノー! どこにいるんスかあ!?」


 ロンが観覧席に座ったのを確認して雲の城へ急いだルークは、塔の多さに辟易へきえきとしていた。


「なんで八つもあるんスか。しかもディノいねえし……。ここにきてハズレとかあり得ねえっスよー! 二十分しかないのにいっ!」


 ジェーンが念のため創ってくれたバールを突き上げ嘆く。まさにお手上げ状態だ。ショーが終わってしまえばこの目論見に気づかれ、ルームメイトたちにどんな災いが降りかかるかわかったものではない。

 焦る気持ちを抑えつつ、ルークは中庭に出てどうするべきか考えた。裏手から正門側へなにげなく目を移して、あれ? と首をひねる。


「そうだよな。正門側は塔がひとつ多いから全部で九つだ。え、俺城門上の塔に行ってない? つか、どっから登るんだよあそこ」


 城の塔はすべて、螺旋階段で上がれるものと思い込んでいたから見逃した。ルークは慌てて城門へ走る。すると裏側にひっそりと階段があった。


「あー! 今までなんとなくトイレの入り口だと思ってたとこおおおっ!」


 毎日通っているくせに構造を理解していない自分への怒りを力に変え、ルークは階段を駆け上がる。その先の扉には鍵がかかっていた。

 ディノに呼びかけるが返事はない。


「くっそお! ここにいてくれよ!」


 バールの先端を扉の隙間に差し込み、力いっぱい押す。全体重をかけ、足で地を掻いて踏ん張り、噛み締めた歯の間から咆哮ほうこうを上げた。

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