第11章 ふたりで迎える夜明け

315 消えたルームメイト①

 十月三十一日。


「やあ、おはよう。どうしたんだい、みんなそろって」


 朝一番、ジェーンはルームメイトたちとともにガーデンの園長室に押しかけた。


「どうした、じゃないですよね」


 いつもと変わらずおだやかな微笑みで出迎えたロンに、ダグラスは硬質な声で言い返す。


「うん? ……ああ、ディノくんのことだね。そうか、連絡を入れ忘れてしまっていたのか。ごめんね。心配かけたかな」

「ディノはどうしたんですか」


 カレンの声は詰問するように鋭かったが、ロンは笑みを崩さない。


「昨日、ジェーンくんとの一件について話したあと、久々に親子で食事をしようということになったんだ。だけどその夕食の途中で、ディノくんの体調が悪くなって……病院に搬送された」


 ルームメイトたちは息を呑み、視線で言葉のつづきを急かす。


「診てもらったところモルヒートだった。感染力が収まるまで、一週間ほど入院することになったんだよ。その準備やらなんやらで、きみたちに連絡することまで気が回らなかった。本当にごめんね」

「どこの病院でしょうか。ディノに会わせてください」


 ジェーンはロンの言葉だけでは信じられなかった。しかし園長は困ったように眉を下げて、首をゆるく横に振る。


「気持ちはうれしいんだけどね、モルヒートはとても感染力の強い熱病なんだ。入院中は僕でも面会が許されないんだよ。でもディノくんは点滴を打って落ち着いているらしいから、安心して」

「じゃあせめて、病院の名前だけでも教えてくださいよ」


 ルークが焦れったそうに尋ねると、ロンはきょとんと目をまるめた。首をかしげて、へらりと苦笑を浮かべ「あれ?」とつぶやく。


「なんて言ったかな……。救急車で運んでもらったから……ええと。やだな、僕も歳だね。それとも自分で思っている以上に気が動転してたのかな」


 あとで調べてみるね、と言って答えるのを切り上げる。ルームメイトたちは顔を見合わせた。うっかりなのかとぼけたのか、言葉なく疑念が交わされ空気がかすかにさざ波立つ。


「さあ、演劇部のみんなはそろそろ始業時間だね。準備して、お客様を出迎えてあげて。グランドフィナーレは今年も観させてもらうよ。とびきり楽しみにしてるね」

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