314 疑念④
「そうだな。まずディノに話を聞く! それから考える! みんなでやればきっとうまくいくはずだ。なあルーク!」
ダグラスから笑いかけられ、ルークはうなずきながらもちらりと扉を見やった。
「そうっスね。ディノが早く帰ってくればいいんスけど」
扉横の柱時計は、ディノのいつもの帰宅時間に迫っていた。もう少ししたら玄関扉の開く音がして、ひかえめな「ただいま」が聞こえてくるはずだ。
「ふふっ。ジェーン、なあに。ふにふにして。マッサージしてくれるの?」
「えっ。あ……」
ふいにプルメリアがくすぐったそうに笑った。なにごとかと思えば、ジェーンは肩に回った彼女の腕を無意識に触っていた。その弾力や肉のやわらかさ、血液のぬくもりを確かめるような動きだったことに、自分でも驚く。
――そこで暮らしている人々も……人間を模して創り出された生物だ。ルークも、カレンも、プルメリアも、ダグラスも、人間じゃない……。
ディノの言葉に気を取られている隙に、ジェーンはプルメリアに押し倒された。
「私もジェーンをふにふにしたい! お腹がやわらかいかなあ?」
「はあい。一名様ご案内ですね。当店自慢の美顔マッサージをご堪能くださあい」
するとカレンも悪ノリしてきて、ジェーンの頭をひざに乗せる。頬をつまんでぐりぐりとこねくり回しはじめた。プルメリアもふにふにすると言いつつ、脇腹を這う手は怪しい動きを見せる。
次の瞬間にんまりと笑ったプルメリアにくすぐられて、ジェーンは笑い混じりの悲鳴を上げた。
「女子のじゃれ合いって目に毒だわ」
「っスね」
目を逸らすダグラスとルークのぼやきは、女子三人の笑い声に掻き消される。
――俺たちだけがそれぞれの神に守られて助かり、みんな死んだんだ……!
ディノ、やっぱり私は受け入れたくありません。だってみんな生きてる。
悩んで笑って、バーベキューやパジャマパーティーを楽しんだり、恋や仕事に苦しんだりして一生懸命に生きてる。目に映る姿形もぬくもりも声もなにひとつ、私と変わらない。
……ウソだよ。ここにいるダグラスが偽物だなんて。彼はもういないなんて。
私は友だちのために、職場の仲間のために、最後まで仕事をやり遂げる。もし本当にロン園長が悪巧みをしていたとしても、みんながいれば怖くない。
だいじょうぶ。きっと――。
しかしその夜、いくら待ってもディノは帰ってこなかった。
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