313 疑念③

「ディノは、それはロン園長の一面に過ぎない、と言っていました……」

「案外、家庭内暴力を振るうような人は、外面はいいってよく聞くわね」

「それじゃ本当なの……!?」


 カレンの話にプルメリアは不安の声を上げる。なんとも言えない表情をしたダグラスが、ひざにひじをついてうなった。


「まだ決めつけるのは早いんじゃないか? 養子の件で一時的にもめてるってこともある……。男同士だし、手が出るのも珍しくないと思う」


 ルークとカレンは表情を曇らせながらも相づちを打った。プルメリアはそんなルームメイトたちの様子をうかがっている。

 ロンへの信頼が厚いためか、親子の問題に口出しするのをためらっているのか、みんなもやはり消極的だ。しかしロンには二面性がある。それは確かかもしれないと、ジェーンは思いはじめていた。

 腕の傷、荷造りされたかばん、そしてなによりジェーンの話に耳を貸さずディノを孤立させたロンの態度。それらを考えると疑念を抱かずにいられない。

 ロン園長に裏の顔があるんだとしたら、ディノが言っていた真実の話も……?


「ジェーン? 寒いの?」


 プルメリアにそろりと声をかけられ、ジェーンはまた腕をさすっていたことに気づいた。


「不安なんだと思います。その、ディノの様子がとても切羽詰まって見えましたし、ロン園長のこともわからなくなってしまって……」


 手足だけが異様に寒かった。室温や体の不調ではなく、精神が不安定になっている表れなんだろうと思う。

 こんな状態で明日の舞台演出は務まるのだろうか。いや、それよりもディノの警告通り逃げるべきなのか。大勢の観客を裏切り、仲間たちとガーデンの信用を失墜しっついさせようとも。

 再び思考が泥沼に埋もれかけた時、ジェーンはふわりとあたたかいものに包まれた。ハッと目を起こすと、プルメリアの胸に抱かれている。


「だいじょうぶだよ。ディノくんが帰ってきたらみんなでお話を聞いて、力になってあげようよ。もし断られちゃったら、うーん……。あ、またみんなでバーベキューに行くとか!」


 ねえ、とプルメリアは明るくルームメイトたちに話を振る。カレンがくすりと笑った。


「いいんじゃない。手助けにはいろんな形があるわ。きっと私たちにもできることはある」

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