312 疑念②

「だってディノってなんだかんだ良いやつだし、友だち思いだろ」

「そうよ。不器用だけれど、けして乱暴するような人じゃないわ」

「だから騒ぎを聞いた時、なにか誤解されてるってみんな思ったんだよ!」


 ダグラスにうなずきながら、カレンとプルメリアがつづける。三人の目には冷たさも疑いもない。


「あり得ねえっスよ。ディノはジェーンちゃんがお気に入りなんスから」

「ル、ルーク!」


 ひとりがけソファのひじかけにもたれるルークから茶化されて、ジェーンはついムッと唇を尖らせた。するとルークはけらけらと笑い、ダグラスとカレンは苦笑し、プルメリアはひかえめに笑い声を弾ませる。

 暖かかった。ルームメイトたちのいるこの家は、いつだってジェーンをやさしく包み込んでくれる。だけど今は完璧ではない。ひとりの姿が見えないだけで、どこからか隙間風が吹き込んでくる。


「それで俺たち、帰りにロン園長に話聞きに行ったんスよ」

「だけど会えなかった。留守だった。ディノも捜したけど、園芸部には戻ってないって」


 ルークとダグラスの話を聞いて、ジェーンはますます寒気を覚え手を握り締める。


「ねえ、なにがあったの……? 養子のお話?」


 ためらいがちに問いかけてきたプルメリアに、ジェーンは首を横に振る。カレンからも強い視線を感じた。

 話してもいいのだろうか。いくら家族同然のように暮らしている仲とはいえ、ロンとディノの親子関係にまで踏み込んでしまっていいのかわからない。

 それにディノが真実だという話。あれは軽々しく口外できるものではない。

 だけどこうしてジェーンが戸惑っている間にも、ディノはまた苦しい思いをしているかもしれない。ひとりで耐えて、助けも求められずに傷ついているかもしれない。


「実は……ディノは腕に、怪我をしているんです。それは、その、ロン園長が負わせたものなんです……」


 しばし誰もなにも言わなかった。


「……つまり、虐待ぎゃくたいか?」

「ははは……そ、そんなわけねえっスよ。あの超過保護なロン園長っスよ?」


 ダグラスもルークも顔を強張らせ、声はひどく揺れていた。

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