310 ウソつきの告白⑥

 ディノの弁明をぴしゃりと封じ、ロンはジェーンに歩み寄ってくると片ひざをついた。眉を下げたいつもの柔和な微笑みが注がれる。


「ジェーンくん、怖い思いをさせたね。本当にすまない。ディノくんと友だちになってくれたきみの暖かさを思うと、僕もとても苦しい。でも親として、きちんとけじめはつけるからね。安心して」


 だがその微笑みの造形は、緻密ちみつに削り出されたように完璧だった。塗り固められたろうの裏側に、ディノを傷つけたもうひとつの顔がちらつく。

 するとひどく心を砕いたロンの言葉たちも、まるで台本に書かれたセリフのように通り過ぎていった。

 呆然と見つめるばかりのジェーンをどう捉えたか、ロンは労るように肩をなで立ち上がろうとする。ジェーンはハッと園長の手を掴んだ。


「違、うんです。私はディノに乱暴も、ひどいこともされていません……。彼はただ、私に話をしてくれて……。でも私が、ひどく混乱してしまっただけで……」

「ああ、ジェーンくん。きみは本当に心やさしいんだね。ディノくんに同情してかばってくれるなんて」


 ロンは胸を打たれたという風にジェーンの手を両手で握り締め、大きな声でそう言った。

 すると、周りの空気が変わる。ジェーンとディノを取り巻いていた当惑の空気は、強風となってディノへ吹きはじめた。


「ジェーン、いいんだよ。ルームメイトだろうとあんなやつ、かばわなくて」

「クリス!? 違います! ディノは本当になにもしていません!」

「うん。ジェーンくんの友情はありがたいけど、いけないことはいけないことだよ。きみの誠実に、僕も誠実で応える」


 さあ、来なさいディノくん。

 そう言いながらロンは立ち上がり、ジェーンの手を離す。もう一度追いすがろうとしたジェーンを、ロンは見てもいなかった。

 扉の周りに集まった従業員たちを下がらせ、ロンはディノの背を押す。従業員たちの目は厳しかった。ブレイドとジャスパーでさえ懐疑的な眼差しを向け、唇は固く引き結ばれている。


「ディノ……!」


 言い知れない焦燥に駆られて、ジェーンは追いかけようとした。しかし、立ち上がったとたん吐き気がのど奥を突いて視界が回る。クリスの支える手が動きを阻んだ。

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