309 ウソつきの告白⑤
ゆっくりと詰め寄ってくるディノの姿がぶれる。それと同時に激しい頭痛がジェーンを襲う。雑音に混じりたくさんの声が流れ込んできた。どれも知らないもの。だけどどこか懐かしい。
その感覚に手を伸ばそうとすると、血管が破裂しようと暴れ回る。
「ロンはあんたを養子にしようとしてるんじゃない。利用して、かつての栄華を取り戻そうとしてるんだ! ここにいたらあんたは一生、あいつの道具にされる!」
「いたい……。やめてください、ディノ……もう……」
突然、目の前がまっ白になった。その光の中に男性が佇んでいる。光で顔は見えなかった。だけどジェーンは彼が夢の中のダグだと直感した。名前を呼んで、手を伸ばす。
しかし彼は小さく微笑んで、光の中に溶けていった。喪失、恐怖、悲しみが一気にジェーンの中に雪崩れ込んでくる。四肢を引きちぎられる苦痛を伴って。
「俺たちは忘れちゃいけないんだ。思い出してくれ、本物の恋人のためにも。あんたの、本当の名前は――」
「やめてえええっ!」
ジェーンの悲鳴とともに解き放たれた魔力は、生命以外のすべてを一瞬にして氷に創り変えた。壁にはめ込まれていた氷の鏡面は、あまりの魔力の強さに耐えられず砕け落ちる。
ジェーンは痛みに意識がかすみ、氷の床に崩れ込んだ。時まで凍てついてしまったかのような空間に、硬質な靴音が響く。
「なにをしてるんだい、ディノくん。今の悲鳴はどういうことかな」
水蒸気に変わっていく扉の向こうから現れたのは、ロンだった。園長の後ろには、ジェーンの声や魔法に気づいた従業員たちが集まってきている。
「ジェーン!? ジェーンだいじょうぶ!?」
ロンの脇からクリスが飛び出してきた。ジェーンを助け起こし、そっと肩に寄りかからせてくれる。くしゃりと歪んだクリスの目に涙の膜が張ったかと思うと、剣呑な光を差してディノをにらみ上げた。
「ひどい」
「ディノ、お前……」
ブレイドからも困惑の声がこぼれ、ディノはたじろぎ首を横に振った。
「ち、ちがうっ。俺は――」
「ともかく、僕の部屋でじっくり話を聞こうか。でもねディノくん、どんな事情があっても乱暴は見過ごせない。僕は園長として厳しく判断させてもらうよ」
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