305 ウソつきの告白①
困惑しつつもジェーンは慌てて記憶を引っ張り出す。
今朝、ディノは確かに二階から下りて来なかった。ジェーンは何度か声をかけたが、そのどれにも彼は「だいじょうぶだ」「ちょっと部屋の整理をしている」とはっきり返事した。それを裏づけるように、扉越しには物音もいっしょに聞こえた。
出勤時間になって「先に行ってくれ」と言われ、シェアハウスを出てきた。そんなに急いで片づける理由はわからなかったが、半休でも取るつもりなのかもしれないと思っていた。
「そんな、体調が悪そうな様子は少しも……」
「ロン園長には伝えたか」
ジャスパーが鋭く尋ねる。
「もちろんだ。ディノが無断欠勤なんて今まで一度もないからな。事故に遭ってなければいいんだが……」
ジェーンはハッと息を詰めた。焦燥に駆られてジャスパーの腕を掴む。
「私シェアハウスに行ってきます! ジャスパー部長、すみませんが少し前倒しで昼休みに入ってもいいですか!?」
「……ああ、わかった。ニコライにも伝えておく。でも慌てるなよ。少しくらい遅れたっていい。お前になにかあったら、明日のフィナーレは中止にせざるを得ないんだからな」
大きくうなずいて、走り出す。
ジェーンは壁かけ時計に目をやった。ダグラスとルーク、カレン、プルメリアがゲリライベントに出ていってから十分ほど経っている。あと五分か十分は戻ってこないだろう。
それを待っていることなどとてもできない。ジェーンは勢いよく大扉を開けた。
「ひゃっ、わっ、んん……っ!?」
しかし次の瞬間誰かに腕を掴まれ、叫び声が飛び出しかけた口を塞がれる。ジェーンは目を白黒させ、後ろから羽交い締めにしてくる腕を振り払おうと無闇に暴れた。
だがみるみるとどこかの部屋に連れ込まれてしまう。
「あ……っ!?」
部屋に入ったと思ったら奥に向かって突き飛ばされ、ジェーンは床に倒れ込んだ。鏡面の壁が目に入る。ここは少人数で稽古をする個別レッスンルームだ。
そうと理解した時には、背後で施錠の音がした。弾かれるように振り返った先にいた人物を見て、ジェーンは目をまるめる。
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