299 ルームシェア生活の行く末②

「どういうことなんだ、ディノ」


 ダグラスから矛先を向けられて、ディノは苛立たしげに舌打ちする。


「知らない。俺に聞くな」

「あの、ロン園長は私の行く末を心配してくださって……。両親の手がかりもずっと掴めないままですし、その、ルームシェアはいつまでつづけられるかわからないから、と……」


 ルームシェアの未来の話をすると、みんなうつむいてしまった。心のどこかではやはり、永遠につづくことはない日常だとルームメイトたちも考えていたんだと知る。

 ジェーンはひざに置いた手を握り締めた。


「まあ……。ロン園長の言うことは確かだ。それはわかっていた。つまり、ジェーンがひとりぼっちにならないための養子縁組なんだな?」


 ダグラスから投げかけられて、ジェーンはうなずく。


「そう、ね。大事なことだし、いつその時が来てもいいように前もって考えておく必要はあるわね……。でも養子なんて突然言われても――」

「俺はアリだと思うっス」


 戸惑うカレンの言葉を遮って、きっぱり言ったのはルークだ。ダグラスが後輩の名前を呼んでたしなめる。しかしイスに座り直したルークは、勢いを収めない。


「ジェーンちゃんはしっかりしてる。それに仕事も順調っス。だからひとりでも十分暮らしていけるっスよ。でも、いざという時、損得考えず助けてくれる人がいれば、もっと生きやすくなるんス」

「でもルーク、ジェーンは断片的に覚えている記憶もあるんだ。そんな簡単には決められないだろ」


 難色を示すダグラスに向かってルークは身を乗り出した。


「じゃあダグ先輩がこの先ジェーンちゃんになにかあった時、必ず力になってあげるって約束できるんスか」

「ちょっとルーク。落ち着きなさい。養子の問題からズレてるわ」

「カレン先輩は黙っててください。それだけじゃないんスよ。俺は中途半端にやさしくするやつが嫌いなんだ」


 ルークがひたと視線を注ぐと、ダグラスはうつむき沈黙した。カレンもなにか気がついたように小さく息をつき、ダグラスを見やる。

 嫌悪や怒りよりもルークの声は叱責の響きを帯びていた。


「そうだな。じゃあ俺からはっきり言わせてもらう」


 その時、静寂を破ったのはディノだった。ゆっくりと席を立ったディノから視線を感じ、ジェーンは目を見ることができなかった。

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