279 ロンとランチ⑤

 知らず知らず縮込まっていた肩を、ニコライに強く叩かれた。


「帰ったら飯を食ってすぐ寝ろ。体調管理も仕事のうちと思え。今回の舞台演出は、ジェーン以外に勤まる者はいない。お前が倒れたら、大勢の客を失望させることになる」

「は、はい。がんばります……!」


 必死にうなずくジェーンにニコライは薄く笑って、豪快に頭をなでた。


「みんな期待してるぞ! 頼もしいルーキーに!」

「そうだぜ。ラルフさんからもらったこれ食ってがんばれ」

「あ、プロテインバーは結構です」


 果たして、ニコライとレイジの言うしごきは、けして大げさではなかった。

 ジャスパーは連日、閉園後にみっちり三時間、舞台を使っての練習をおこなうようになった。もちろん日中の通常業務もある。

 加えて気の早いことに、次のクリスマスイベントの話まで動き出し、ジェーンは曜日どころか季節の感覚まで狂いそうだった。

 シェアハウスにはほとんど寝に帰るようなものだ。当然、ダグラスもカレンもルークもプルメリアも疲労困憊こんぱいで、できあいものの夕食をつつき、会話もそこそこに入浴を済ませ就寝する。

 新しく取り入れられた創造魔法の演出もあって、みんないつも以上に緊張の糸を張っていた。


「あれからずっと、ディノと話せてないな……」


 本当に嫌われてしまったのかディノのことが気がかりでありながらも、ジェーンは今日も強い睡魔に抗えなかった。

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