278 ロンとランチ④

「あの、ごめんなさい。私、前にディノのことウソつきと言ってしまって……。ディノはただ、私とダグに話す機会を作ってくれたんですよね。感情的になってしまって、本当にすみません」

「いや、あんたは正しい。俺はウソつきだ。関わってるとろくなことにならないぞ」

「ディノ……?」


 掴んでいた袖を軽く振り払われた。目を見開くジェーンを、ディノはちらりとも見ようとしない。


「もう俺に構うな。それがお互いのためだ」


 ジェーンを突き放し、ディノは食堂の人混みに紛れていく。遠ざかる背中をもう一度引き止める勇気はなかった。

 ロンの言っていたことは勘違いか、ウソつき呼ばわりする前のことに違いない。だって今のディノの態度こそが、すべてだ。


「よーう。ジェーン、お疲れ」

「どうした? ボーッとして」


 そこへやって来たのは、同じ整備部のレイジとニコライだった。ふたりは隣のテーブルに昼食の乗ったトレイを置いて腰かける。

 油の切れかかった機械のようにぎこちなく振り返ったジェーンを、彼らは不思議そうに見上げていた。


「ディノに嫌われました……」

「あー。ディノって解雇されそうになった時、駆けつけた園芸部の彼氏か」

「彼氏ではないですけど」


 レイジの言葉に訂正を入れつつ、ジェーンはとりあえず座り直した。

 無意識に深いため息がこぼれる。ダグラスにつづきディノとまで関係をこじれさせてしまうなんて、さすがに自分に嫌気が差した。


「まあ、ちょうどいいんじゃねえか」

「なにがちょうどいいですか!」


 投げやりなことを言うレイジをムッとにらむ。


「ハロウィンショー初公演日まで四週間切ったからな。そろそろジャスパー部長のしごきがはじまるってことだ」

「しごき……?」


 ジェーンは思わず横のニコライを見た。


「どのイベントもそうだが、ハロウィンは特に気合いの入った追い込みになるそうだな」

「そういうこった。だから彼氏に構ってる暇はない。ケンカしたんなら、お互い頭冷やす時間できてちょうどいいだろ?」


 アナベラもこの時期はやつれていたな、とニコライの恐ろしいつぶやきが聞こえる。隙あらば休もうとしていたと噂に聞くあの女帝が?

 急に冷房が効いてきたようだ。背中が寒い。

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