272 パジャマパーティー②

「ねえねえ写真撮ろ! ベッド乗って」

「え、写真ですか……。私慣れてなくて……」


 とたん、不安そうな顔をするジェーンの腕を、カレンと両側から絡め取りながらベッドに上げてしまう。さすが大学時代からの先輩だ。わかっている。

 それにカレンも写真を撮るのは好きだ。


「だいじょうぶよ。レンズ見て、普通にしていればいいだけだから」

「普通が一番難しいんです……!」


 カレンからも説得されてジェーンはたじたじだ。ちょっと悪いとは思いつつ、写真が苦手というならなおさら、かわいいジェーンを収める機会は今しかない。

 プルメリアはてきとうな本で高さ調整したカメラをローテーブルに設置し、急いで自分もベッドに上がった。


「ほら、撮るよ。ジェーン、カメラ見て!」


 シャッターの切る音が小さく部屋に響く。プルメリアはさっそく現像されて出てきた写真を見た。案の定ジェーンの表情が硬い。

 しかしフリルのネグリジェを着て、花冠をかぶったルームメイトは最高にかわいいし、その横の先輩も大人の色気があふれていて動悸どうきがする。


「でき映えはどう? プルメリア」

「ばっちり! もっと撮ろおー!」

「え! まだ撮るんですか!?」


 若干嫌そうなジェーンも巻き込み、プルメリアとカレンは手を繋いでみたり、クッションを抱き締めてみたり、振り返ってみたり、うつ伏せで寝転んでからのジェーンを押し潰してみたりした。


「いやー! 重いですう!」

「重い? それは私のことなのジェーン。ほらほらあ」

「ちょ、プルメリアっ、私も潰れるからやめなさい!」


 悲鳴や文句、からかう声が飛び交っていた部屋にはいつしか、笑い声だけが響く。その声に誘われた男子三人組みが様子を見に来るまで、女子会はにぎやかにつづいた。


「プルメリア。カレン。ふたりに話したいことがあります」


 電気が消えた薄暗い天井を見上げ、三人で身を寄せ合いまどろみに向かおうとしていた時だった。ジェーンが緊迫した声で切り出す。彼女の目はまっすぐに天井を見つめていた。

 ジェーンの顔越しにカレンも、真剣な眼差しで耳を傾ける様子が見える。


「なに」


 短く尋ねたカレンの声はかすれて、夜風に揺れるカーテンのようにやわらかだ。

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