270 ふたりぼっちのお風呂②

 カレンは自身の記憶を辿るように宙を見て、唇に触れた。やっぱり少しずれた感覚かもと苦笑しながら、プルメリアは浴槽に両手で頬づえをつく。


「恋愛って苦しいでしょ。うれしかったり楽しかったり、幸せな気持ちもたくさん運んでくれるけど。同じくらい苦しい思いもする。時々、大切なことがわからなくなるくらい……」


 ジェーンがシェアハウスに来なければ。

 あとから来たくせに、ちょっと図々しくない?

 私も記憶を失えば、もっとダグに気にかけてもらえるのに。

 そんな黒い感情に呑まれて自分を見失っていくことが怖かった。自分の嫌いなところが増えて、好きなところがからっぽになってしまうくらいなら、ジェーンと自分の幸せを重ねて喜び合えるほうがずっといい。


「そうか。だから私……」


 ジェーンとダグラスが気になってしまうのは、嫉妬ばかりではないんだと気づく。自分の恋心をジェーンに預けていた。だから落ち込んでいる彼女を放っておけない。


「カレン! やっぱりこのままはダメだよ。ジェーンをひとりにできない」


 ぱしゃんと水しぶきを立てて、プルメリアはカレンの肩を掴んだ。


「でも無理に話を聞き出すのはよくないわ」

「そうだよね。うーん……。あ、じゃあこういうのはどう?」


 肌理細やかなカレンの肌にするりとすり寄って、プルメリアはひらめいたことを耳打ちした。




「パジャマパーティー、ですか?」


 お風呂から出たばかりのほかほかジェーンを掴まえて、プルメリアは上機嫌にうなずく。


「そう! パジャマでお喋りしてお泊まりするパーティーだよ。会場は私の部屋! 日時は今からでーす!」

「え、今で――わっ、カレン!?」

「はいはい。ご招待客のジェーン様ご案内よ!」


 ジェーンの背中を押し、有無を言わさず押し込むカレンを、プルメリアは拍手で称える。とっさの思いつきでティーセットしか用意できなかったが、我ながらいい案だった。

 話をしてくれなくてもいい。ただ今夜だけは、ジェーンのそばで眠りたい。


「あーん。でもどうせなら、おそろのネグリジェ着たかったな」

「ネグリジェってなんですか?」

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