265 甘くて痛い①
「あんた、ジェーンとガーデンでなんかあったんだよな?」
「ああ。俺が失言したんだ。それで今謝って仲直りしてもらった。でも……」
そこまで言ってダグラスは、迷うように目を伏せた。
「なんだかすっきりしない。さびしいような、もやもやが残って……」
ダグラスはため息をつくと力なく笑う。
「悪い。先、風呂入るわ。みんなに言っておいて」
いつになく重い足取りでダグラスが階段を上りはじめた時、キッチンからルークとカレン、プルメリアがひょこりと顔を出した。三人はダグラスを見やって、玄関に佇むディノに目を移し首をひねる。
「ジェーンちゃんは帰ってないんスか?」
ディノがうなずくと、プルメリアはカレンと顔を見合せた。
「どうしたのかな……」
「そうね。昼間から調子よくないみたいだったけど、ジェーンがダグと途中で別れるなんて……」
「そうだよね。好きな人とは一秒でもいっしょにいたいよね」
プルメリアの言葉にディノはハッと息を詰めた。
なにもかもを忘れても、ジェーンの中からダグラスは消えなかった。それをディノはたまたまだと軽く片づけていた。
けれど、心変わりした恋人に傷つき、恋敵を羨み、自分は醜いと叫んで流した彼女の涙で気づいた。彼女は狂おしいほどダグラスを愛している。そこに誰かが入り込む余地なんてなかった。
会える日を待ちわびて毎日通っていたディノと彼女の視線が、ついに交わることはなかったようにジェーンはダグラスだけを見つめている。
いっしょにいられる時間を、たとえひと時でも理由なく手放す彼女じゃない。
ディノは玄関扉へ走った。スリッパを蹴飛ばし、靴に足を突っ込んで、かかとを押し込む間も惜しみドアノブに手を伸ばす。
その瞬間、
――ウソつき。
響いたジェーンの声が足を縫い止めた。
「違う。ジェーンが迎えにきて欲しいのは、俺じゃない」
彼女がずっと待っていたのはダグラスだ。そう悟って身を引いた。
それに、ジェーンと関わるのはロンの思うつぼだ。ダグラスは仲直りしたと言っていた。それならまだ希望はある。
いや、この際彼じゃなくてもいい。ディノ自身とロンの差し向ける人物以外であれば、ジェーンは平穏に過ごすことができる。
俺さえ関わらなければ――。
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