264 狂うほど愛しい④

「私、ダグのそういう前向きでやさしいところ好きです。それにロジャー王を演じている凛々しくて堂々とした姿も」


 にっこり笑って、いっそ薄情なほどの無邪気を装った。


「きっとファンなんです。たくさん助けてもらったように、私もあなたを応援したいです。だからどうか、これからもよろしくお願いします」

「え、ファン……。そうなんだ……」


 拍子抜けしたような声をこぼすダグラスの胸中はわかっていた。彼にだけお菓子を作ったり、思わせぶりな言動をしたりしていたのは、ファンなんてきれいな気持ちだけじゃない。

 下心があった。プルメリアから奪ってしまいたいほどの欲望をはらんだ目で、手で、声で、彼に触れていた。

 だけど、そんなことは忘れてしまったかのように、ジェーンは首をかしげてダグラスの顔を覗き込んだ。


「ダグ?」

「あっ、ごめん。ファンって言ってもらえてうれしいよ。俺もジェーンのこと尊敬してる。すごく大変な境遇でも気丈にがんばってて。こっちこそ、よろしくな」

「はい! あ、すみません。私コンビニ寄るの忘れてました。先に行っててもらえますか?」

「え、待っててもいいけど」

「いえ、悪いですから。ちょっと時間かかるかもしれませんし」


 口早に言うや否や、ジェーンはダグラスがそれ以上なにか言わないように走り出した。急く足を堪えて、一度も振り返らずに、風の音が耳を塞ぐように。




 * * *



「ただいま」


 玄関からダグラスの声が聞こえて、ディノは顔を起こした。

 先に帰っていたルークとカレン、プルメリアから、ダグラスはジェーンを待つために残ったと聞いている。その時点でディノは、ガーデンでケンカ別れのように終わったデートのことじゃないかと思っていた。

 逸る気持ちを抑えて、自然を装い廊下に出る。しかしそこには、靴からスリッパにはき替えるダグラスの姿しかなかった。


「ジェーンはどうした」


 ディノは思わず詰め寄った。


「途中までいっしょだったんだけど、すぐそこのコンビニ寄るって……」


 どこか浮かない顔のダグラスにディノは眉をひそめた。自分の余計なお節介で生まれた波紋が、さらに広がるのは見過ごせない。ロンの不穏な言動も頭にちらつき、ディノは踏み込んだ。

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