242 引率つきデート③
ジェーンとダグラスとディノは、〈女王の箱庭〉と呼ばれるカフェで休憩していた。ここは森の迷路とアスレチックを通り抜けた先にある小さな庭園で、ここまで足を伸ばす客は少なくゆったりとしている。
ジェーンは手洗い場で冷やしてきたハンカチを、そっとダグラスの頬にあてた。赤くなってはいるが、切れたり腫れたりはしていないようだ。
「でも、大事なお顔ですのに」
そう言うとダグラスは噴き出した。
「なんだそれ。ちょっとの傷くらい化粧でどうにでもなるよ。それよりジェーンが怪我しなくてよかった」
大好きなチョコも我慢するくらい美容に気を遣っているというのに、あっけらかんと笑ってくれるダグラスに胸があたたかくなる。再び患部を冷やそうとすると、ダグラスの手が止めた。
「自分でやるよ」
「いえ、やらせてください。私がやりたいんです」
せつな、目をまるめたダグラスは「そっか」と言って視線を下げる。ひざに乗せた手が忙しなく動いていた。そのふわふわとした空気がジェーンにも伝播して、ハンカチを持った手が緊張してしまう。
役者であるダグラスの肌は、夏の日差しを受けてまぶしいほど肌理が整っていた。その上を珠のような汗が伝っていく。すっと研ぎ澄まされたあごの輪郭を辿って、誘うように揺れたそれは彼の鎖骨に落ちて弾けた。
ふとそばで鳴ったイスを引く音が、ジェーンの意識を引き戻す。音がしたほうへ目を向けると、ディノがなにやらしきりに周囲を見回していた。
「ディノ、どうかしましたか?」
「なんでもない。俺はそろそろ帰る」
「あ、ああ。そうか。気をつけて帰れよ」
やけにあっさりとしたダグラスを気にする素振りもなく、ディノは席を立つ。ジェーンは迷った。
ダグラスとようやくふたりきりになれるのはうれしいが、ディノも大切なルームメイトだ。邪険に扱いたいわけではない。それに、ここまで緊張せずに楽しめたのはディノがいてくれたからだ。
歩き出した背中をジェーンは追いかけた。
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