243 大事な話①
「ディノ。あの、無理に帰らなくてもいいですよ。私は三人でも十分に楽しめてます。最初はちょっとびっくりしちゃいましたけど、でもディノがいてくれると――」
「ダグラスはあんたに大事な話があると言っていた」
「えっ」
ドキリと胸が高鳴り、思わずまじまじとディノを見上げる。しかし彼はジェーンを拒むかのように体ごと顔を背けた。
「だからデートに誘ったんだ。わかるだろ、この意味。あんたも……素直な気持ちを話してやればいい」
ディノはそのまま足早に行ってしまった。かけられた言葉は間違いなくジェーンの背中を押すものだった。けれど励ましの手になぜか突き放される感触を覚える。
彼はまたウソをついているの? たとえそうだとして、一体なにができるだろう。大事な話に目がくらんで一歩も動けない私に。
「あれに乗ろうか」
池を囲む大通りに戻ってきた時、ダグラスはそう言って指をさした。その先には宙に浮かぶ星くずの川がある。ボートに乗って大通り沿いを一周できる〈ミルキーウェイ〉だ。
空気を固めて創った溝に光の水がたゆたい、その上を泳いでいくボートは本当に空を飛んでいるかのようだ。通りに架かる橋の下では、オールで押し出された光の滝を浴びて、子どもたちがきゃたきゃたと笑っている。
「おや、ロジャー様。お忍びデートですか。いってらっしゃいませ」
案内係がダグラスに気づいて茶化してきた。知り合いだったのか、ダグラスは「ばーか」と笑って悪態をついたけれど、デートは否定しなかった。
それがうれしいやら、ますます緊張してしまうやらで、ジェーンはハンドバッグをぎゅうと握り締める。
ダグラスの持ったオールが光の水を掻き、舟はゆっくりと滑り出す。陽光には少しだけ
ジェーンはすくってみようとしたが、手で掴めない。水音はするのに濡れもしない。
夜空に架かる星の光を川にたとえた、人々の想像を実現させる力。自分も創造魔法士でありながら、ジェーンは時々とても不思議な心地に駆られた。
「きれいだな、本当に」
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